突き指やマレット指(槌指)は、スポーツや日常生活の中で誰でも起こりうる手のケガです。特に突き指は「そのうち治るだろう」と軽視されがちですが、実際には骨折や靭帯損傷、腱断裂などを含むことがあり、早期に正しい診断や治療を受けないと後遺症が残るリスクもあります。一方、マレット指は指先を伸展できなくなる症状が特徴的で、放置すると他の関節に二次的な影響を及ぼすケースもあります。ここでは、突き指やマレット指の原因や症状、診断方法、そして治療・リハビリテーションの流れを詳しく解説し、予防や再発防止に役立つ情報をお伝えします。
突き指とは
突き指とは、指先に大きな衝撃が加わり、その結果、関節周囲の骨や靭帯、腱などに損傷が起こるケガの総称です。主にボールを投げたり取ったりするスポーツや、何か硬い物をつかもうとして強く突いてしまうときに発生しやすい傾向があります。一般的に「突き指」と一口に言ってしまいますが、その中には以下のような様々な損傷が含まれます。
- 骨折
末節骨や中節骨など、指の骨の一部にヒビが入ったり折れたりする場合があります。骨折部位や程度によっては見た目の変形がほとんどわからないこともあり、放置すると指の変形や可動域制限が残るリスクもあります。 - 骨端線損傷
成長期の子どもに多く見られる損傷で、骨端線(骨の成長に関わる軟骨部分)に負荷がかかることで生じます。適切に処置をしないと指の変形や成長障害が起こる場合があるため、特に注意が必要です。 - 捻挫(靭帯損傷)
指の関節周囲にある靭帯が過度に伸ばされたり一部断裂する状態です。痛みや腫れが出るほか、関節が不安定になる可能性があります。 - 腱損傷
指を伸ばしたり曲げたりするための腱が傷つくことで、関節の動きに制限が生じたり、痛みが続いたりします。
突き指は痛みや腫れ、指の動かしにくさが現れることが多いですが、「しばらくすれば自然に治る」と安易に考えてしまいがちです。しかし、上記のように見た目だけでは判断しにくい骨折や損傷が含まれている可能性もあるため、痛みが長引く場合は早めに整形外科を受診し、レントゲンやエコーを使った詳細な検査を受けることが大切です。
マレット指(槌指)とは
マレット指は、指の第1関節(DIP関節)が曲がったままになり、自力で伸ばすことができなくなる症状です。この状態が木槌(マレット)に似ていることから「マレット指」や「槌指」と呼ばれています。大きく分けると、腱そのものが断裂している「腱性マレット」と、腱が付着する骨が折れている「骨性マレット」の2種類があります。
腱性マレット
伸筋腱(指を伸ばす腱)が断裂し、指を伸ばせなくなるタイプです。加齢により腱が弱くなると生じやすくなるといわれ、中年以降に多いとされています。初期に適切な固定を行わずに放置すると、腱端が離れたまま癒着が進んでしまい、自然治癒が難しくなる場合があります。
骨性マレット
末節骨の伸筋腱付着部が骨折し、その結果、指先が伸ばせなくなる状態です。強い外力が指先に加わることで生じやすく、年齢に関係なく発生する可能性があります。骨折の有無で治療方針が大きく変わり、場合によっては手術が推奨されることもあります。
マレット指の原因
マレット指は、多くの場合、突き指などによる外傷が引き金となります。具体的には以下のようなシチュエーションで起こりやすいとされています。
- ボールや物が指先に衝突し、急激に指が曲げられた
- 家事などで指先に強い力が瞬間的に加わった
- 包丁など刃物で指の伸筋腱が断裂した
また、軽い外力であっても日常的に指を酷使している場合や、腱が弱くなっている場合には、比較的小さな衝撃でもマレット指を発症することがあります。
マレット指の症状
マレット指の主な症状は、第1関節(DIP関節)で指が曲がったまま伸ばせなくなることです。他動的に指を伸ばすことはできるものの、自力で伸展することが困難になります。骨性マレットでは、骨折に伴う痛みや腫れが出るケースが多いですが、腱性マレットの場合は痛みがほとんどない場合もあります。
また、マレット指を放置すると、第1関節が曲がったままの状態を補おうとして、第2関節(PIP関節)が過度に伸展する「スワンネック変形」を起こすことがあります。変形が進行すると関節に余分な負荷がかかり、指を動かしにくくなったり、痛みが長引いたりすることにもつながります。
診断と検査
突き指なのかマレット指なのか、さらにマレット指でも骨折の有無や腱の損傷程度によって治療方針が変わります。そのため、以下のようなステップで診断・検査を行うことが重要です。
- 問診
受傷機転(どのような状況で指をケガしたか)を確認します。特に外力の強さや方向、痛みの推移などの情報が診断に役立ちます。 - 身体所見
指の変形、痛みや腫れ(腫脹)、皮膚の状態、関節の可動域などを確認します。マレット指が疑われる場合は、第1関節(DIP関節)が他動的には伸びるか、自力では伸展できないかなどを詳しくチェックします。 - レントゲン検査
骨折の有無や程度を確認します。腱付着部が剥がれた骨折や脱臼を伴う場合は、手術が必要になることもあります。 - エコー検査
伸筋腱や関節周辺の軟部組織の損傷具合を把握します。骨折がなくても腱に断裂が見られる場合は、装具療法や手術が検討されます。
突き指の治療
突き指の治療では、まず骨折や靭帯損傷、腱損傷の程度を評価し、それぞれに応じた適切な処置を行います。骨折がある場合には、骨折部の整復や固定が必要になるケースがあります。靭帯損傷や腱損傷が認められた場合は、装具やテーピングなどで患部を安定させ、炎症を抑えるための休息や冷却、必要に応じてリハビリテーションを開始します。捻挫や軽度の損傷だと自己判断して放置してしまうと、関節の変形や可動域の制限など、後々の日常生活に支障が残る可能性があるので注意が必要です。
マレット指の治療
腱性マレットの治療
- 保存的治療(装具療法)
一般的には、指先を伸展した状態で固定する専用の装具(スプリント)を使用します。6週間から12週間程度は装具でDIP関節を伸展位に保ち、腱が癒合するのを待ちます。経過によってはエコー検査で腱の接合状態を観察しながら、装具のフィット感や使用期間を調整していくこともあります。
装具を外すタイミングが早すぎると、腱が十分に癒着せず再断裂につながる恐れがあるため、医師やリハビリ担当者の指導に従うことが大切です。 - 経過観察
指先が多少曲がったままでも、日常生活で大きな不便を感じなければ、そのまま様子を見る選択肢もあります。外観の問題は残るかもしれませんが、痛みや機能障害がなければ経過観察を優先することもあります。 - 外科手術
受傷から時間が経ち、腱断端が大きく離れてしまった場合や自然癒合が望めない場合には、腱を末節骨に縫い付ける手術を検討する必要があります。特に指の機能を重視するスポーツ選手や仕事で指先を多用する方にとって、確実に指を伸ばす機能を回復させるための選択肢になります。
骨性マレットの治療
骨性マレットは、骨折の有無や程度によって治療が異なります。
- 装具療法
骨片が比較的小さく、関節の脱臼がなく整復位が保たれる場合は、装具を使ってDIP関節を伸展位に固定し、骨癒合を待つ保存的治療を行うことがあります。 - 外科手術
骨片が大きかったり、関節の脱臼を伴っている場合には手術で骨片を固定して確実な骨癒合を図るほうが良い成績を得やすいとされています。とくに末節骨全体が脱臼しているような重症例では、放置すると可動域制限や変形が残る可能性が高いため、手術が強く勧められます。
治療後のリハビリテーションと注意点
突き指やマレット指の治療では、装具やギプスなどを用いて指を固定する期間があります。固定期間が長引くと関節の柔軟性が低下し、筋力も落ちやすくなるため、固定が外れた段階から医師やリハビリ担当者の指導のもとでリハビリテーションを開始することが重要です。
- 可動域訓練
固定期間の影響で、指が思うように曲げ伸ばしできなくなることがあります。無理のない範囲から徐々に可動域訓練を行い、炎症を引き起こさないよう注意しながら指の動きを取り戻していきます。 - 筋力トレーニング
指先や手指全体の筋力が低下していることが多いため、グリップボールを握る練習など、軽度な負荷から開始して徐々に強度を上げていきます。 - 再発防止策
急激に強い力が指先にかからないよう、スポーツ時にはテーピングで補強したり、日常生活でも衝撃を予防する工夫が求められます。完治していない状態で激しいスポーツや無理な動作をすると再度損傷する可能性が高まるため、焦らず治療を進めましょう。
スポーツや日常生活での予防
突き指やマレット指を予防するためには、普段から指への負担を減らす工夫が必要です。例えば、ボールスポーツであれば、正しいフォームを意識し、衝撃を指先だけで受け止めないよう身体の使い方を見直すことが大切です。荷物を持つときやドアを開閉するときなど、意外と指先には日常的に大きな力が加わっている場合があります。ストレッチや軽い運動で指や手首の柔軟性を高め、腱や靭帯を常に良好な状態に保つことでケガのリスクを下げることができます。
まとめ
突き指は軽いケガと思われがちですが、骨折や靭帯損傷、腱断裂が潜んでいることもあり、放置すると治りが悪くなるだけでなく、後遺症が残るリスクも高まります。マレット指も同様に、見た目や痛みが軽微でも放置すれば指全体のバランスが崩れ、他の関節に変形が出る可能性があります。どちらのケガも、受傷時点で早めに整形外科を受診し、レントゲンやエコー検査により正確な診断を受け、装具や手術など適切な処置を行うことが重要です。早期対応とリハビリテーションの継続で、指の機能を維持・回復させ、スポーツや日常生活を快適に送れるようにしましょう。