足の指先が曲がったまま伸ばしづらい、または自力では伸ばせない――こうした症状が「マレットトゥ」と呼ばれる足指の変形で起こることがあります。普段あまり聞き慣れない名前かもしれませんが、気づかないうちに変形が進んでいるケースもあるため、痛みや違和感がなくても注意が必要です。ここでは、マレットトゥとはどのような状態を指すのか、原因や治療・予防法などを詳しく解説します。足指のトラブルは日常生活に大きく関わるため、早めの対策が大切です。
屈趾症の一種としてのマレットトゥ
足の指が変形してしまう代表的なものに「ハンマートゥ」「クロートゥ」、そして「マレットトゥ」が挙げられます。これらは総称して「屈趾症(くっししょう)」と呼ばれており、いずれも足の指が何らかの形で曲がったままになってしまう状態です。
- ハンマートゥ
つま先から2番目の関節(PIP関節)が曲がってしまうタイプで、金づち(Hammer)のように見えるため「ハンマートゥ」と呼ばれます。 - クロートゥ
鉤爪(かぎづめ)のように指全体が屈曲するタイプで、英語の“claw(クロウ)”から「クロートゥ」と名付けられています。 - マレットトゥ
一番先端の関節(DIP関節)だけが曲がった状態になり、木づち(Mallet)を連想させることから「マレットトゥ」と呼ばれています。足指が下向きに曲がり、伸ばそうとしても自力では伸びきらないという特徴があります。
ハンマートゥとマレットトゥは、どちらも“槌趾(つちゆび)”と総称されることがありますが、曲がる関節が異なるため区別が必要です。
マレットトゥはどのような状態?
マレットトゥは、足の指先(末節骨)とその根元にあるDIP関節が足裏側に向けて屈曲し、本人の意思では伸ばせなくなる状態を指します。とくに第2趾(人差し指)や第3趾(中指)に生じることが多いですが、第4・5趾にも起こり得ます。母趾(親指)にはほとんど見られません。
マレットトゥには大きく分けて2つのタイプがあります。
- 柔軟性のあるタイプ
他人の手や自身の手で指先を伸ばそうとすると、いったんは伸びる(戻せる)ものの、自分では十分な力が入らず常に曲がりやすい状態。 - 固定型(拘縮が起きているタイプ)
関節周辺の軟部組織が癒着してしまい、物理的に伸ばせなくなっている状態。関節が固まってしまうと、外部から力を加えても十分に伸びなくなります。
このように、曲がったままの状態が続くとDIP関節周辺の組織がさらに硬くなり、指先の可動域が失われて日常生活に支障が出るケースもあります。
マレットトゥが起こる主な原因
マレットトゥは、大きく分けて以下の3つの原因が考えられます。
- 外傷性によるもの
- 靴などの圧迫によるもの
- 病気(内科的要因)によるもの
外傷性によるマレットトゥ
サッカーやランニングで足先をぶつける、家具などに足の指を強く当てるなどの「突き指」がきっかけで起こることが多いです。DIP関節を伸展させる筋肉(長趾伸筋)の腱が断裂したり、腱が付着する骨が剥離骨折を起こすと、伸筋の機能が十分に働かなくなり、そのまま指先が曲がってしまいます。こうした外傷を放置すると、曲がった状態で固定されてしまうことも少なくありません。
靴や靴下などの圧迫によるマレットトゥ
長年にわたり先の細い靴やヒールの高い靴を履き続けていると、常に足指が圧迫された状態になります。小さいサイズの靴や強い締め付けのある靴下・ストッキングを日常的に履くことも、指先の屈曲を助長する大きな要因です。
- 足指の先が常に押し込まれる
- 指先が靴の先端に当たって曲がりやすい
- 下り坂や階段を長時間歩くときに指先が靴に当たりやすい
こうした負担が蓄積すると、伸筋腱が弱くなったり、腱と周囲の組織が癒着して拘縮を起こすことがあります。特に指先背側(爪のある側)にタコ(胼胝)ができるケースも多いのが特徴です。
病気が原因で起こるマレットトゥ
膠原病(関節リウマチなど)や痛風などによる関節炎が長期化すると、関節軟骨の変形が進み、DIP関節が曲がってしまうことがあります。また、糖尿病による皮膚・関節のコラーゲン変化によって関節が拘縮しやすくなることも見逃せません。神経麻痺(脳梗塞や脊髄の障害など)によって足の指を動かす筋肉のバランスが崩れ、変形を引き起こす場合もありますが、神経麻痺による変形ではハンマートゥやクロートゥになる例が多く、マレットトゥは比較的稀といえます。
さらに、外反母趾や内反小趾、開張足などの足部変形に合併してマレットトゥが起きるケースも少なくありません。足部の変形で指が捻じれ、筋腱の引っ張り方向が変わると、特定の関節に過剰なストレスがかかりマレットトゥが生じやすくなります。
マレットトゥは治るのか?
マレットトゥが生じた場合、治療の可能性は原因と変形の程度によって異なります。外傷性のものは、骨折や腱断裂が起きている場合は早期に適切な治療を行うことが肝心です。腱が完全に断裂していると、単に固定するだけでは断端がうまくくっつかないケースも多く、手術を検討する場合があります。
柔軟性のあるマレットトゥ
指を他動的に伸ばせる状態(まだ拘縮していない状態)であれば、テーピングやサポーター、足底板などを用いて、DIP関節を伸展位に保つことで改善が見込める場合があります。早期のケアが何より大切なので、違和感や変形に気づいた段階で専門医に相談すると良いでしょう。
拘縮が進んだマレットトゥ
完全に関節が固まっている場合は、リハビリやストレッチなどで可動域を広げるアプローチをしても、症状の改善が限られることがあります。痛みや歩行障害など日常生活に深刻な影響がある場合は、外科的手術が選択されることもあります。
指先だけの軽度な変形だからと放置してしまうと、他の足指や足部全体への影響が出たり、巻き爪や陥入爪を悪化させるケースもあります。少しでも気になる点がある場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。
マレットトゥの予防方法
マレットトゥは一度進行すると元に戻しにくい場合があるため、日頃から以下の点に気をつけて予防することが大切です。
- 足に合う靴を選ぶ
横幅に余裕があり、つま先部分が十分に広い靴を選びましょう。ヒールの高さもなるべく低めにして、指先に過度な負担がかからない設計のものを推奨します。 - 締めつけの少ない靴下やストッキングを選ぶ
指先がきつく締め付けられると変形を誘発しやすくなります。可能であれば五本指ソックスを活用したり、自宅では裸足で過ごすなどして、指が自由に動く環境を整えましょう。 - 足指の筋力を高める運動を取り入れる
タオルギャザー(床に敷いたタオルを足指でたぐり寄せる運動)や、足指じゃんけん(指をグー・チョキ・パーの形に動かすトレーニング)など、地味に見えて効果的なエクササイズを継続することで、足指の筋肉バランスが整えられます。 - 足裏をほぐして柔軟性を保つ
マッサージやストレッチで足底筋群やふくらはぎ周辺(長趾屈筋など)をケアしておくと、足指の動きが滑らかになります。硬くなった筋肉や腱を放置すると、変形リスクが高まります。 - 足指の怪我を放置しない
ぶつけたり捻挫をして指先に腫れや痛みが出るときは、そのままにせず早期に受診しましょう。腱断裂や骨折が見逃されると、マレットトゥとして残りやすくなります。
まとめ
マレットトゥは、足指のDIP関節が曲がったまま伸ばせなくなる屈趾症のひとつで、外傷や靴の圧迫、病気による関節変形などさまざまな要因で生じます。曲がっている部位が比較的先端の関節であっても、放置すれば他の指や足部全体に影響を及ぼしかねません。柔軟性が残っているうちに適切な対応を取れば回復の可能性が高まりますが、完全に拘縮が進むとリハビリや手術が必要になる場合もあります。まずは日常生活で指先に負担をかけないように注意し、少しでも変形や痛みを感じたら早めに専門医に相談することが大切です。