足首をひねった際に起こりやすい靭帯損傷としては、足首の外側(前距腓靭帯など)や内側(三角靭帯)の損傷がよく知られています。しかし、足首よりやや上にある「遠位前脛腓靭帯(えんいぜんけいひじんたい)」「遠位後脛腓靭帯(えんいこうけいひじんたい)」を痛めるケースも少なくありません。これらの靭帯は脛骨(けいこつ)と腓骨(ひこつ)を繋いでおり、足首を構成する重要な要素のひとつです。損傷を見逃してしまうと、足関節の不安定感に悩まされたり、将来的に慢性的な痛みを抱えてしまうこともあるため注意が必要です。ここでは、遠位前・後脛腓靭帯がどんな役割を果たしているのか、どんなきっかけで損傷しやすいのか、症状や治療法、予後の見通しなどを詳しく解説していきます。
遠位前脛腓靭帯・遠位後脛腓靭帯とは
脛骨と腓骨は、膝から足首にかけて二本並行に走っている下腿骨です。これらの骨は、近位脛腓靭帯(膝寄り)、下腿骨間膜(かたいこっかんまく)、遠位脛腓靭帯(足首寄り)などで強固につながっています。そのうち遠位部分で脛骨と腓骨を結びつけているのが、前下脛腓靭帯とも呼ばれる「遠位前脛腓靭帯(Anterior inferior tibiofibular ligament:AITFL)」と、後下脛腓靭帯とも呼ばれる「遠位後脛腓靭帯(Posterior inferior tibiofibular ligament:PITFL)」です。
足首は「距腿関節(きょたいかんせつ)」と呼ばれ、脛骨・腓骨がつくるアーチ状の空間に「距骨(きょこつ)」がしっかりとはまり込むことで成立しています。荷重による大きな負荷が加わるたび、脛骨と腓骨の接合部にかかる力を遠位前・後脛腓靭帯がしっかり抑え込むことで、足首がグラグラしないよう安定させているのです。強度の高い靭帯ではありますが、バスケやサッカーなどで他の選手の足に着地したり、地面に足が固定された状態で体がねじれたりした際などに、大きな力が加わると損傷するリスクが高まります。
損傷が起こりやすいスポーツやシーン
遠位前・後脛腓靭帯の損傷は、主にコンタクトスポーツで多く見られます。具体的には、バスケットボール・サッカー・バレーボール・ラグビーなど、ジャンプや急激な方向転換が多い競技が挙げられます。特に、着地時に他の選手の足の上に乗ってしまったり、プレー中の接触で足が変な向きにひねられたりした場合に、大きく足関節が捻転され、脛骨と腓骨の間に強い牽引力が働いて靭帯が損傷に至ることがあります。
また、足首には内返し(足裏を内側に向ける動き)・外返し(足裏を外側に向ける動き)、回旋(足首をひねる動き)など多彩な可動域がありますが、遠位脛腓靭帯が損傷するケースでは、「ねじれ」の方向に強い力が加わり、距骨が脛腓骨を内側・外側に大きく押し広げてしまうことがきっかけになることが多いのです。
内反強制・外反強制・回旋強制による受傷メカニズム
足首の捻挫では、内反捻挫(足首を内返しに強制されたとき)が典型的ですが、外反捻挫や回旋による捻挫、さらには繰り返し衝撃を受ける「インピンジメント」による損傷など、さまざまなパターンがあります。遠位前・後脛腓靭帯の損傷も、これら複数の力学的要因が加わった場合に発生しやすいとされています。
- 足関節の内反強制
一般的に「足首をひねった」と聞いてイメージされるのが内反捻挫です。内返しにより距骨が内側方向へ入り込み、脛骨と腓骨を強制的に広げようとして遠位前脛腓靭帯が傷つくことがあります。外くるぶし周辺の靭帯や骨折(果部骨折)にも注意を払わねばなりません。 - 足関節の外反強制
外反方向へ足首がひねられた場合には、内側の三角靭帯や遠位後脛腓靭帯が損傷しやすいです。通常は内側の損傷がメインとなりやすいですが、強い外力が加わると、前方の遠位前脛腓靭帯にもダメージが及ぶことがあります。 - 足関節への回旋強制
地面に足部が固定された状態で体が回転すると、足関節に強い回旋力が働きます。距骨にねじれが加わると、前後の脛腓靭帯が離開方向に引っ張られ損傷が起きるのです。このとき外側・内側の主な靭帯損傷(前距腓靭帯や三角靭帯)が見られず、「足首をひねったはずなのに典型的な外側靭帯損傷の所見がない」という場合には、遠位前・後脛腓靭帯の損傷を疑う必要があります。 - インピンジメントによる繰り返しの負荷
スポーツシーンでは、ジャンプや着地を繰り返すことで距骨が足関節の上部(脛骨・腓骨の下端)に衝突し、遠位脛腓関節に負担をかけ続けることがあります。これを「インピンジメント症候群」と呼び、骨性や軟部組織性などさまざまなタイプがあります。遠位脛腓靭帯の場合は、特に後下脛腓靭帯周辺が何度も衝突を受けることで痛めるケースがあるため、着地動作やジャンプ動作の多い競技では注意が必要です。
損傷時にみられる症状
遠位前・後脛腓靭帯を損傷すると、受傷直後から足首周辺に強い痛みや腫れ、熱感、内出血が生じることが多いです。とくに靭帯が損傷した部位の近くでは皮下出血が目立ちやすく、次のような特徴があります。
- 前方の靭帯(遠位前脛腓靭帯)を痛めた場合
足首の前外側~外くるぶし周辺に強い痛みや腫れが出やすい。底屈(つま先を下げる動き)で距骨が後方へ動くと痛みが増幅しやすい傾向があります。 - 後方の靭帯(遠位後脛腓靭帯)を痛めた場合
アキレス腱付近や外くるぶし後方に痛みや腫れが出やすい。足首を背屈(つま先を上げる動き)したときに、距骨が前方にずれて靭帯へ負担がかかり、痛みが誘発されやすくなります。 - 荷重時痛が強い
遠位脛腓靭帯は、下腿骨(脛骨・腓骨)に体重がかかった際、距骨が両骨を押し広げようとする力に抵抗する靭帯でもあるため、立ち上がる・歩くなどの荷重動作で痛みが増すのが特徴です。
また、足首をひねった際にはしばしば外側の前距腓靭帯や踵腓靭帯、内側の三角靭帯なども同時に損傷することがあります。ほかにも脛骨や腓骨そのものが骨折しているケース、距腿関節の関節軟骨を痛めるケース(離断性骨軟骨炎や骨軟骨損傷)もあるため、痛みの程度や範囲が広い場合は複数の合併症を疑って精密検査を受けることが大切です。
適切な治療・固定とリハビリの重要性
遠位前・後脛腓靭帯を含む足首の捻挫を負ったら、まずは応急処置として「RICE処置(安静・冷却・圧迫・挙上)」あるいは「POLICE処置(保護・最適な荷重・アイシング・圧迫・挙上)」を施します。急性期は特に冷却が重要で、腫れや内出血を最小限に抑えるためにも早期のアイシングは効果的です。
固定期間の目安
- 軽度の損傷であれば、2~3週間程度の固定後にサポーターやテーピングで補強しつつ、徐々に荷重を増やしていくことが多いです。
- 中度~重度で合併症も疑われる場合には、4~5週間程度のギプス固定や副子固定などを行うことがあります。その後、徐々に免荷(杖や松葉杖を用いるなどの措置)を解除し、リハビリを進めていきます。
遠位脛腓靭帯をしっかり安定させるには、脛骨と腓骨をギュッと締める形の固定が必要です。必要に応じて足関節全体も動かないように固定することで、距骨の押し広げる力を抑制し、靭帯の回復を促します。
リハビリと再発予防
固定除去後は、足関節の可動域訓練や筋力トレーニング、バランストレーニングなどを行い、再び捻挫が起きにくい足首にしていくことが重要です。スポーツ復帰の際には、しばらくの間サポーターやテーピングを使用して靭帯を保護することも一般的です。
さらに、足部のアーチを支えるインソールを利用すると、荷重時に踵骨や距骨が外転しにくくなり、遠位前・後脛腓靭帯へかかるストレスを軽減できます。特に足の縦アーチ(土踏まず)が低下していると、足首周辺の靭帯へ負担が大きくなりがちです。適切なインソール選びや、足部・足関節だけでなく下半身全体のアライメントを整えるアプローチも再発予防につながります。
予後と注意点
遠位前・後脛腓靭帯は、部位的にしっかり固定しやすい靭帯のため、適切な初期治療とリハビリを怠らなければ、比較的良好な経過を辿ることが多いです。ただし、競技復帰を急ぐあまり固定やリハビリを中途半端に終わらせてしまうと、足首のぐらつき(不安定感)が残りやすくなります。結果的に再度捻挫して靭帯損傷が悪化したり、慢性的な痛みや腫れに悩まされたりする場合もあります。
また、強い外力で損傷した場合は、脛骨・腓骨周辺の骨折や関節軟骨の損傷が合併していることも珍しくありません。痛みや腫れの範囲が広かったり、歩行が困難なレベルであれば、なるべく早く医療機関を受診し、レントゲンやMRIなどの検査を受けることが望ましいでしょう。
まとめ
遠位前・後脛腓靭帯の損傷は、足首の捻挫のなかでもやや見落とされやすいケガですが、荷重時の安定性を支える重要な靭帯です。適切に治療・固定しないまま放置すれば、足関節のぐらつきや繰り返す捻挫、慢性的な痛みに悩まされるリスクが高まります。早期に専門的な診断を受け、しっかり固定・リハビリを行い、再発防止策としてテーピングやインソールなども活用しましょう。焦って競技や運動に復帰せず、段階的に負荷をかけながら回復を目指すことが大切です。