踵骨(かかとの骨)の骨折と聞くと、日常的にイメージしづらいかもしれませんが、実は高所からの飛び降りや長距離ランニングなどで起こる場合があります。とくに踵骨骨折は、足裏にかかる負荷が非常に大きいため、変形や関節障害など後遺症が残るリスクも高い骨折です。ここでは、外傷性の踵骨骨折から疲労骨折、起こりやすい原因、リハビリ方法、注意点などを詳しくお伝えします。痛みを感じたら無理をせず、骨折の可能性を疑い、早めに医療機関を受診することが大切です。
外傷性の踵骨骨折について
高所から飛び降りた際に足を強く打ちつけると、かかとに強い圧がかかり、踵骨骨折が生じることがあります。飛び降りる高さや衝撃の強さにもよりますが、踵骨は縦方向に押しつぶされるような「圧迫骨折」を起こしやすいのが特徴です。ちょっとした段差でも着地に失敗してしまうと骨折に至ることがありますが、ビルや階段、遊具などそこそこ高い場所からの落下で起こるケースが多いといわれています。
圧迫骨折と整復の難しさ
踵骨骨折が圧迫骨折の形を取ると、骨が上下から押しつぶされたまま変形しやすく、これを元の形に戻す(整復する)のは容易ではありません。踵骨は足首(距骨)の真下にある関節「距踵関節(距骨下関節)」と連動して体重を支える役目を担いますが、この関節面まで骨折が及ぶと、変形性関節症のリスクが高まり、痛みや可動域の制限を残してしまう可能性があります。
治療の流れ
骨折の程度が軽い場合は、ギプス固定やシーネ固定で患部を保護しながら一定期間、体重をかけずに過ごす「免荷」が必要です。完全な免荷を徹底しないと、骨が変形したまま癒合したり、骨癒合が遅れたりすることがあります。一方、圧迫がひどい重度の骨折では、手術で骨片を整復してプレートやスクリューなどで固定する手段が選択されることもあります。どちらの場合も、時間をかけて骨がしっかりくっついてから徐々に荷重を開始していくのが基本です。
骨粗しょう症でも要注意
高所からの落下に限らず、骨の強度が低下している骨粗しょう症の方や高齢者は、わずかな衝撃でも踵骨骨折を起こしやすくなります。かかとをぶつけた、あるいは荷物を落とした程度で激痛が出ることがあれば、念のため医療機関での画像診断を受けることが大切です。
疲労骨折のリスク
踵骨骨折には、激しい衝撃によって起こる外傷性のものだけでなく、長期にわたる繰り返しの負荷で起こる疲労骨折も存在します。硬いコンクリートや床を走るランナー、部活などで走り込みを頻繁に行う若年層などはとくに注意が必要です。
なぜ疲労骨折が起きるのか
疲労骨折とは、骨に繰り返しかかる小さな負荷が蓄積し、やがて骨組織に亀裂が生じる状態です。走る・跳ぶなどの動作を何度も繰り返すことで、かかとの骨が耐えきれなくなりダメージを起こします。特に靴底が硬い、あるいはすり減ってクッション性が落ちている場合や、足底筋膜・アキレス腱の牽引が強いフォームだと、踵骨への衝撃が大きくなり、疲労骨折につながりやすくなります。
間違えやすい他の病態
かかとが痛む場合、足底筋膜炎(足底腱膜炎)や有痛性踵骨棘など、似た症状をもつ疾患は少なくありません。そのため、痛みの原因が軟部組織の炎症なのか、骨折を含む骨の損傷なのかを鑑別することが重要です。レントゲン検査やMRI検査、骨シンチグラフィなど、必要に応じて正確な診断を受けるようにしましょう。
診断の難しさ
疲労骨折は、受傷後すぐにレントゲンで骨折線が写りにくいことも多いです。痛みが続くのに骨折が見当たらない場合でも、時間がたってから再度検査すると仮骨(骨折部にできる新しい骨の形成)が見られ、そこで骨折が判明するケースもあります。痛みが長引くのにレントゲンで異常がなかった場合、MRI検査を検討することが推奨されることもあります。
固定期間と免荷
疲労骨折の場合は、骨折の程度にもよりますが4週間前後の安静・免荷を行うことが多いとされています。完全に体重をかけないケースもあれば、痛みの度合いによっては部分荷重を認めることもあります。運動選手などは練習を減らすだけで痛みが軽減する場合もありますが、一度しっかりと休養して骨を回復させないと、再発リスクが高くなる点に留意してください。
踵骨骨折から起こりやすい合併症・後遺症
踵骨骨折は、単純に骨が折れただけではなく、その後に合併症や後遺症が生じるリスクが高い骨折です。適切な治療とリハビリを行わないと、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
コンパートメント症候群
足部や下腿部(ふくらはぎ付近)は筋肉や腱、血管、神経などが限られたスペースの中に収まっています。踵骨を強打して骨折すると、周囲の軟部組織に大きな炎症・腫れや血腫が生じることがあり、それが神経や血管を圧迫する「コンパートメント症候群」を引き起こすことがあります。血行障害や神経障害が進行すると回復が遅くなるばかりか、組織壊死のリスクも出てくるので、強い痛みやしびれには要注意です。
変形
圧迫骨折を伴う踵骨骨折は、元の骨形状に戻すのが困難です。かかとの形が左右で大きく異なると、足の長さに差が出たり、体重をかけるバランスが崩れたりします。さらに、変形が距踵関節に及ぶと、歩行時に痛みが出やすくなったり変形性関節症に進行したりするケースもあります。
可動域の低下や関節拘縮
長期にわたる固定や痛みによる運動制限から、足首や後足部の関節が動かしづらくなることも少なくありません。かかと周辺は足首との連動が重要なので、変形や痛みによる防御反応で動きが制限されると、拘縮(硬さ)が残りやすくなります。
神経障害
内くるぶし(内果)と踵骨の間には「足根管」というトンネル状の部分があり、足裏に向かう神経や血管が通っています。踵骨骨折の腫れや変形がこの足根管を圧迫すると、足裏の感覚が鈍くなる、しびれる、筋肉が萎縮して足指が変形しやすくなるなどの神経障害が起こる可能性があります。
骨委縮(RSDを含む)
大きな外傷や手術をきっかけに、自律神経のうち交感神経が過剰に興奮し、「反射性交感神経性ジストロフィ(RSD)」などの症状が出ることもあります。これは激しい痛みが長期的に続くだけでなく、骨が弱くなる骨委縮や皮膚の変色・腫れなどが併発する怖い症状です。怪我が治っていても痛みが持続することがあり、日常生活に大きな支障をきたす場合もあるため、早期の対応が肝心です。
リハビリの重要性
踵骨骨折のリハビリでは、骨がきちんと癒合してから徐々に荷重をかけたり、足首や足裏の筋肉を動かすトレーニングを始めます。外傷性の重度骨折であれば、医師や理学療法士の指示をあおぎながら、慎重にリハビリを進めることが必要です。無理をして痛みが再発すると治療期間が長引き、後遺症が残るリスクも高まります。
疲労骨折の場合は、足首から下腿(ふくらはぎまわり)までの筋力バランスを整えることが重要です。足関節の安定性や正しい着地フォームを獲得することで、再びかかとへの強い衝撃が繰り返されないようにします。同時に、ランニングシューズやインソールなどのチェックや変更を行い、踵部のクッション性を高める工夫をするのもポイントです。
まとめ
踵骨骨折は、高所から飛び降りた衝撃や長期の走り込みなど、多様な場面で起こるリスクがあります。特に圧迫骨折を伴うと、変形や関節面への損傷により後遺症が残る可能性が高いのが特徴です。疲労骨折の場合も、初期の段階では画像検査で判明しづらく、発見が遅れると痛みが慢性化するリスクがあります。適切な診断と治療、そして慎重なリハビリを行うことで、骨癒合を促進し後遺症を防ぐことができます。