はじめに:「ただの肩こり」だと思っていたら…その痛み、放置は危険です
「最近、なんだか肩が上がりにくい」
「夜中に肩がズキズキ痛んで目が覚める」
「服を着る時、腕を後ろに回すと激痛が…」
40代、50代を迎えると、多くの人がこのような肩の不調を経験します。そして、その不調を「年だから、ただの肩こりがひどくなっただけだろう」と、自己判断で済ませてはいないでしょうか。
しかし、その症状、もしかしたら「普通の肩こり」ではなく、「四十肩・五十肩」という全く別の疾患かもしれません。
この二つは、原因も対処法も全く異なります。もし、これらを混同して間違ったケアをしてしまうと、症状を悪化させ、回復を長引かせるだけでなく、肩が固まって動かせなくなってしまう「後遺症」を残す危険性すらあるのです。
この記事では、整骨院という体の専門家の視点から、「普通の肩こり」と「四十肩・五十肩」の根本的な違いを徹底的に解説します。さらに、ご自身でできる簡単な見分け方から、もし四十肩・五十肩だった場合に知っておくべき「3つのステージ」とそれぞれの正しい対処法まで、詳しくお伝えしていきます。
あなたのそのつらい肩の痛みの正体を正しく理解し、回復への最短ルートを歩むための、確かな知識を身につけましょう。
第1章:全くの別物!「肩こり」と「四十肩・五十肩」の根本的な違い
まず、最も重要なことからお伝えします。「肩こり」と「四十肩・五十肩」は、似ているようでいて、その正体は全くの別物です。
「普通の肩こり」の正体は、“筋肉の疲労”
一般的に私たちが「肩こり」と呼んでいるものは、病気ではありません。
- 主な原因:長時間のデスクワークやスマホ操作による姿勢の悪化、運動不足、精神的なストレスなど。
- 体の中で起きていること:首から肩、背中にかけての筋肉(主に僧帽筋など)が過度に緊張し、硬くなることで血行が悪化。その結果、筋肉内に疲労物質が溜まり、「重い」「だるい」「張っている」といった不快な症状を引き起こします。
- つまり、肩こりの正体は、主に「筋肉の血行不良による疲労状態」なのです。
「四十肩・五十肩」の正体は、“関節の炎症”
一方、「四十肩・五十肩」は、その名の通り40代や50代で発症することが多い症状ですが、これは通称です。正式な医学名称は「肩関節周囲炎」といい、これは単なる症状ではなく、治療が必要な「疾患(病気)」です。
- 主な原因:加齢に伴い、肩関節を包む袋である「関節包」や、筋肉と骨をつなぐ「腱」、骨と骨をつなぐ「靭帯」といった、肩関節の周りの組織が硬くなったり、炎症を起こしたりすることが原因と考えられています。はっきりとしたきっかけがなく、自然に発症することも少なくありません。
- 体の中で起きていること:肩関節の内部や周辺で「炎症」が起き、痛みが生じます。そして、その炎症が治まる過程で組織が癒着(くっついてしまうこと)し、関節の動きが悪くなってしまうのです。
- つまり、四十肩・五十肩の正体は、「肩関節そのものや、その周辺組織の炎症」なのです。
このように、「筋肉の問題」である肩こりと、「関節の問題」である四十肩・五十肩では、アプローチの方法が全く異なってくるのです。
第2章:これでスッキリ!自分でできる見分け方セルフチェック
では、ご自身の症状がどちらに近いのか、具体的なチェック方法で見分けていきましょう。特に、2番目の「腕の動き」が最も重要な判断基準となります。
チェックポイント1:痛みの種類と場所
あなたの痛みは、どのような性質で、どこが痛みますか?
- 普通の肩こりの場合
- 痛みの種類:「ズーンと重い」「パンパンに張っている」「石のように硬い」といった、重だるさや鈍い痛みが中心。
- 痛みの場所:首の付け根から肩の上部(肩を揉んでほしいと感じる場所)がメイン。
- 四十肩・五十肩の場合
- 痛みの種類:「ズキズキする」「ジンジンする」「電気が走るような」といった、鋭い痛みが特徴。安静にしていても痛むことがあります。
- 痛みの場所:肩関節の奥の方、腕の付け根、二の腕(上腕部)にかけて痛みが広がることが多い。
チェックポイント2:【最重要】腕はスムーズに動きますか?(可動域の制限)
これが、二つを見分けるための最大のポイントです。「痛み」だけでなく、「動きの制限」があるかどうかに注目してください。
- 普通の肩こりの場合痛みやだるさはあっても、基本的に腕は色々な方向に動かすことができます。「動かすと少し痛い」ことはあっても、「痛くて全く動かせない」ということはあまりありません。
- 四十肩・五十肩の場合特定の方向に腕を動かそうとすると、激痛が走ってそれ以上動かせなくなります。これを「可動域制限」と呼びます。特に、以下の動作が困難になります。
いますぐできる!可動域セルフチェック
- バンザイチェック両腕を、耳の横につけるようにまっすぐ真上に上げてみましょう。→ 四十肩・五十肩の場合、腕が途中までしか上がらなかったり、上げようとすると肩に激痛が走ったりします。
- 結髪(けっぱつ)動作チェック髪をとかしたり、頭の後ろで髪を結んだりする動作をしてみましょう。→ 四十肩・五十肩の場合、腕が上がらず、頭の後ろに手が回せません。
- 結帯(けったい)動作チェック腰の後ろで帯やエプロンの紐を結ぶように、両手を背中に回してみましょう。→ 四十肩・五十肩の場合、痛い方の腕が背中に回らず、腰のあたりまでしか届かない、といったことが起こります。
これらの動きが明らかに制限されている場合は、四十肩・五十肩の可能性が非常に高いと言えます。
チェックポイント3:夜、痛みで目が覚めますか?(夜間痛)
- 普通の肩こりの場合日中の疲れで夜にだるさを感じることはあっても、痛みで眠れない、目が覚めるということは稀です。
- 四十肩・五十肩の場合「夜間痛(やかんつう)」は、四十肩・五十肩の典型的な症状の一つです。炎症が起きているため、就寝中、特に寝返りをうった時などにズキッとした激痛で目が覚めてしまうことがあります。また、痛い方の肩を下にして眠ることができません。
これらのチェックで、もし「四十肩・五十肩」の可能性が高いと感じたら、次の章で解説する「3つのステージ」を理解し、正しい対処を行うことが非常に重要になります。
第3章:四十肩・五十肩の3つのステージと、それぞれの時期の正しい過ごし方
四十肩・五十肩は、発症から回復まで、大きく分けて3つのステージをたどります。それぞれの時期で「やるべきこと」と「やってはいけないこと」が全く違うため、ご自身のステージを見極めて、適切に対応しましょう。
ステージ1:急性期(炎症期) – 痛みが最も強い時期(発症から約2週間〜2ヶ月)
- 症状の特徴:
- 何もしなくてもズキズキ痛む(安静時痛)。
- 夜中に痛みで目が覚める(夜間痛)。
- 腕を少し動かすだけでも激痛が走る。
- 肩に熱っぽさを感じることもある。
- この時期の過ごし方:【安静第一!とにかく冷やす】
- やるべきこと:この時期は、関節内で激しい炎症が起きている状態です。何よりも「安静」が第一。無理に動かすことは絶対にやめましょう。痛みが強い場合は、氷のうや保冷剤をタオルで包み、1回15分程度、痛む部分を冷やして(アイシング)炎症を鎮めましょう。寝る時は、腕の下にクッションや畳んだバスタオルを入れて、肩が一番楽なポジションを探します。
- やってはいけないこと:温めること(入浴で温めすぎない)、痛みを我慢して動かすこと、ストレッチやマッサージ。これらは炎症をさらに悪化させ、回復を遅らせる原因になります。
ステージ2:慢性期(拘縮期) – 痛みが和らぎ、固まる時期(約半年〜1年)
- 症状の特徴:
- 激しい痛みは落ち着いてくるが、肩関節が固まり、腕が上がらない、回らないといった「拘縮(こうしゅく)」が主な症状になる。
- 動かせる範囲のギリギリのところで、痛みや突っ張り感が出る。
- この時期の過ごし方:【無理なく動かす!今度は温める】
- やるべきこと:炎症が治まってきたこの時期からは、逆に固まってしまった関節を「動かしていく」ことが重要になります。ここからは、入浴などで積極的に肩を「温めて」血行を良くし、筋肉の緊張をほぐしましょう。その上で、痛気持ちいいと感じる範囲で、ゆっくりとリハビリ(振り子運動など)を開始します。
- やってはいけないこと:痛みが減ったからといって放置すること。動かさないでいると、関節が固まったままになり、可動域制限が後遺症として残ってしまう可能性があります。
ステージ3:回復期 – 少しずつ動きが戻る時期(約1年〜数年)
- 症状の特徴:
- 痛みはほとんどなくなり、固まっていた肩の動きが徐々に改善していく。
- この時期の過ごし方:【可動域を取り戻すための積極的なリハビリ】
- やるべきこと:さらに可動域を広げるため、ストレッチやエクササイズを根気よく継続します。完全に元の状態に戻るまでには時間がかかることもありますが、焦らず、着実にリハビリを続けましょう。
- やってはいけないこと:油断してケアをやめてしまうこと。ここでしっかりリハビリをしておかないと、可動域が完全には戻りきらないことがあります。
第4章:症状を悪化させないために。日常生活での注意点とセルフケア
それぞれの時期に合わせた、日常生活での工夫とセルフケアをご紹介します。
急性期の痛みを和らげる工夫
- 寝る時の姿勢:痛い方の肩を上にし、横向きに寝ます。体の前に抱き枕を抱え、その上に痛い方の腕を乗せると、肩への負担が減り楽になります。
- 着替えの工夫:服を着る時は、痛くない方の腕から先に袖を通し、最後に痛い方の腕を通します。脱ぐ時はその逆で、痛い方の腕から先に抜きましょう。ボタンやファスナーで前が開くタイプの服を選ぶと、着替えが楽になります。
慢性期におすすめのセルフケア
ここからの運動は、必ず「痛気持ちいい」範囲で行い、激しい痛みを我慢して行わないでください。
- 振り子運動(コッドマン体操):安全なリハビリの第一歩です。
- テーブルなどに痛くない方の手をつき、軽くお辞儀をします。
- 痛い方の腕の力を完全に抜き、地面に向かってだらりと垂らします。
- 体の反動を使い、腕を前後に小さく、ゆっくりと振ります。慣れてきたら、左右や、円を描くように動かしてみましょう。
- 壁のぼり運動:
- 壁に向かって立ちます。
- 痛い方の腕の指先を壁につけ、指で壁を這うように、少しずつ腕を上げていきます。「もうこれ以上は痛い」というところで止め、10秒キープ。これを数回繰り返します。
- タオルを使ったストレッチ(結帯動作の改善):
- タオルを背中側に、縦に持ちます。
- 痛くない方の手でタオルの上端を、痛い方の手で下端を持ちます。
- 痛くない方の手でタオルをゆっくりと上に引き上げ、痛い方の腕が無理なく引き上げられるのを助けます。
「普通の肩こり」の方向けのケア
もし、セルフチェックの結果、ご自身の症状が「普通の肩こり」だと判断された場合は、炎症が起きているわけではないため、以下のケアが有効です。
- 積極的に温める:入浴やホットパックで肩周りの血行を良くする。
- 定期的なストレッチ:肩甲骨を回したり、首を伸ばしたりして、筋肉の柔軟性を保つ。
- 適度な運動:ウォーキングなどで全身の血流を促す。
第5章:自己判断は禁物!専門機関に相談すべきタイミング
セルフチェックやセルフケアは重要ですが、自己判断には限界があり、危険も伴います。特に四十肩・五十肩が疑われる場合は、一度専門機関を受診することを強くお勧めします。
整形外科への受診を強く推奨するケース
- 痛みが非常に強く、夜も全く眠れない。
- 腕が全く上がらないなど、日常生活に大きな支障が出ている。
- 腕や手にしびれを感じる。
- 転倒して手をついた、など明らかなケガのきっかけがある。
これらの場合、四十肩・五十肩ではなく、腱が断裂している「腱板断裂」や、首の骨の問題(頸椎ヘルニア)など、別の重篤な疾患が隠れている可能性もあります。
まずは「整形外科」、リハビリは「整骨院」という選択肢
肩の強い痛みや可動域制限を感じたら、まずは「整形外科」を受診し、レントゲンやMRIなどの画像検査で正確な診断を下してもらうことが最も重要です。
そして、整形外科で「肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)」と診断された後、痛みを和らげたり、リハビリテーションを進めたりする段階で、私たちのような「整骨院・接骨院」が大きな力になります。整骨院では、それぞれのステージに合わせて、電気治療や温熱療法、固まった関節を優しく動かす手技療法、具体的なリハビリ指導などを通して、あなたの回復をサポートします。
まとめ:正しい見分け方が、回復への分かれ道
今回は、「普通の肩こり」と「四十肩・五十肩」の違いについて、詳しく解説しました。
- 肩こりは「筋肉の疲労」、四十肩・五十肩は「関節の炎症」という全くの別物。
- 最大の見分け方のポイントは、腕が上がらない・回らないといった「可動域制限」の有無。
- もし四十肩・五十肩が疑われるなら、時期に合わせた対処が必須。「急性期は安静と冷却」、「慢性期は温めと運動」という原則を絶対に間違えないこと。
そして何より、つらい症状を一人で抱え込み、自己流で判断するのではなく、まずは整形外科で正確な診断を受けることが、回復への一番の近道です。正しい知識を持ち、適切な対処を行うことで、つらい痛みや不自由さから一日でも早く解放され、快適な毎日を取り戻しましょう。