近年、スマートフォンやパソコンの普及により、多くの人が長時間画面を見つめる生活を送っています。このような生活習慣は、首や肩の痛み、頭痛、めまい、手のしびれといった不快な症状を引き起こす可能性があります。これらの症状の原因の一つとして考えられるのが「ストレートネック(スマホ首)」です。
ストレートネック(スマホ首)とは?
私たちの首の骨(頸椎)は、7つの骨が積み重なっており、横から見ると、前方へ緩やかにカーブした後、後方へカーブするS字状の生理的弯曲を描いています。この前方へのカーブは「生理的前弯」と呼ばれ、約4~6kgもある頭の重さを分散させ、首への負担を軽減する重要な役割を担っています。
しかし、スマートフォンやパソコンの使用時に、長時間首を前に突き出したり、下を向いたりする姿勢を続けると、この生理的前弯が失われ、首の骨がまっすぐ(ストレート)に近い状態になります。これがストレートネック、別名スマホ首と呼ばれる状態です。
頭の重さは、首の角度によって首にかかる負担が大きく変化します。例えば、頭をわずか15度前に傾けるだけで、首には約12kgもの負荷がかかると言われています。うつむく角度が深くなるほど、首への負担は増大し、様々な不調を引き起こす原因となるのです。
ストレートネックかチェックしてみよう
以下の方法で、ご自身の首の状態を簡単にチェックすることができます。
チェック方法①
- 壁に踵、お尻、肩をしっかりとつけます。
- その状態をキープしたまま、頭が壁から離れていないか確認します。
もし、頭が壁から離れてしまう場合、ストレートネックによって首の自然なカーブが失われている可能性があります。
チェック方法②
- 横方向から全身の写真を撮ってもらいます。
- 写真の中で、耳の位置が肩の真上よりも前に出ていないかを確認します。
もし、耳の位置が肩よりも前に出ている場合、頭が体の軸よりも前に突き出た姿勢になっている可能性があり、ストレートネックが疑われます。
これらのチェックで当てはまる項目があった場合は、ストレートネックによる症状が現れやすい状態にあるかもしれません。
ストレートネックが引き起こす身体への影響
ストレートネックは、首や肩の凝りや痛みといった初期症状だけでなく、進行すると様々な不調を引き起こす可能性があります。
- 首・肩の凝りや痛み: 首の筋肉が常に緊張し、血行が悪くなることで、慢性的な凝りや痛みが生じます。
- 頭痛: 首の筋肉の緊張が、頭部の筋肉や神経を圧迫することで、頭痛を引き起こすことがあります。
- 手のしびれ: 首の神経が圧迫されることで、腕や手にしびれや痛みが生じることがあります。
- めまい: 首の筋肉の緊張や血流の悪化が、自律神経の乱れを引き起こし、めまいを感じることがあります。
- 吐き気: めまいと同様に、自律神経の乱れが原因で吐き気を催すことがあります。
近年では、スマートフォンやパソコンの使用開始年齢が低年齢化しており、大人だけでなく、子どもにもストレートネックによる症状が見られるようになっています。放置すると症状が慢性化する恐れもあるため、早めの対策が重要です。
ストレートネックの主な原因
ストレートネックの最大の原因は、日常生活における不適切な「姿勢」です。特に、長時間同じ姿勢を続けることが、首の自然なカーブを歪ませる大きな要因となります。
長時間のスマホ使用
スマートフォンを使用する際、私たちは無意識のうちに首を深く曲げ、顔を下に向けて画面を見つめる姿勢になりがちです。この姿勢は、首の生理的前弯を失わせ、本来S字状であるはずの首の骨をまっすぐに近い状態、あるいは逆方向に湾曲させる後弯の状態にしてしまいます。画面に集中すればするほど、このような不良姿勢を長時間続けてしまうため、首への負担は増大します。
不良姿勢が長時間続くと、以下のような悪循環が生じます。
- 首や肩の筋肉が過度に緊張する。
- 首や肩の血管が圧迫され、血流が滞る。
- 筋肉に疲労物質や痛み物質が蓄積する。
- 筋肉がさらに硬くなり、痛みが増す。
- さらに不良姿勢を助長する(1に戻る)。
デスクワーク
デスクワークもまた、ストレートネックを引き起こしやすい原因の一つです。パソコンのモニター画面に集中するあまり、頭が体の軸よりも前に突き出し、肩が内側に丸まるような姿勢になりがちです。この姿勢では、首の後ろ側や背中の上部の筋肉が常に引き伸ばされた状態になり、一方で胸の筋肉は縮こまってしまいます。長時間このような姿勢を続けることで、首の自然なカーブが失われ、ストレートネックへと繋がってしまうのです。
ストレートネックの改善・予防方法
ストレートネックの改善と予防には、日頃の姿勢の見直しと意識的な対策が不可欠です。
改善方法
スマホの使用時間と姿勢の改善
まず、スマートフォンを使用する時間を意識的に減らすことが重要です。タイマーなどを活用して使用時間を管理しましょう。そして、使用する際には、できるだけ首を下に向けないように、スマートフォンを目の高さに近づける工夫をしましょう。片手で操作するのではなく、両手でしっかりと持って画面を見るようにすることも、首への負担軽減に繋がります。
デスクワーク時の姿勢改善
デスクワークを行う際は、自分に合った高さの机と椅子を選び、正しい姿勢で作業することが非常に大切です。椅子の座面の高さや奥行き、背もたれの角度などを調整し、足の裏がしっかりと床につき、膝が90度程度に曲がるようにしましょう。モニターは目の高さになるように調整し、画面との距離が近すぎないように注意します。背筋を伸ばし、肩の力を抜き、顎を軽く引いた姿勢を意識しましょう。作業の合間には、簡単なストレッチや休憩を挟むように心がけてください。
睡眠時の枕の見直し
睡眠時に使用する枕の高さや硬さも、ストレートネックに大きく影響します。高すぎる枕は、寝ている間も首が下を向いたような状態になり、ストレートネックを悪化させる可能性があります。また、柔らかすぎる枕は、頭が安定せず、首の筋肉が常に緊張した状態を招き、負担となります。枕は、高すぎず、柔らかすぎない、自分の体格に合ったものを選ぶようにしましょう。もし、適切な枕が見つからない場合は、タオルなどを利用して高さを微調整することも有効です。仰向けで寝る場合は、首の自然なカーブを支えることができるように、首の後ろに隙間ができない程度の高さが理想的です。
予防方法
適度な休憩と身体を動かすこと
パソコンやスマートフォンを長時間使用する際は、意識的に休憩を取りましょう。30分に1回程度を目安に、画面から目を離し、首や肩をゆっくりと回したり、背伸びをしたりするなど、体を動かすことが大切です。立ち上がって軽い運動をするのも良いでしょう。
首の後ろの筋肉を意識的に使う
普段、私たちは首の前側の筋肉を使いがちですが、ストレートネックを予防するためには、首の後ろ側の筋肉を意識的に使うことが重要です。例えば、首をゆっくりと後ろに倒し、首の後ろ側の筋肉が収縮するのを感じたら、ゆっくりと元の位置に戻す運動を繰り返します。また、仰向けに寝た状態で、後頭部を軽く枕に押し付けるような運動も、首の後ろ側の筋肉を鍛え、正しい首のカーブを取り戻すのに役立ちます。
ストレートネック緩和のための簡単ストレッチ
以下のストレッチを日常的に行うことで、首や肩周りの筋肉の緊張が緩和され、ストレートネックによる不快な症状の軽減に繋がります。ストレッチは、反動をつけずに、ゆっくりと15~30秒かけて行うようにしましょう。ストレッチ中は、呼吸を止めないことが重要です。
大胸筋・小胸筋+上腕二頭筋のストレッチ
スマートフォンやパソコンの使用で猫背になり、腕が体の前方に突き出た姿勢が続くことで、胸の筋肉(大胸筋・小胸筋)や腕の前面の筋肉(上腕二頭筋)が硬くなりがちです。これらの筋肉をしっかりと伸ばすことで、肩が開きやすくなり、正しい姿勢を取り戻す助けとなります。
- 腰幅で立ち、両手を体の後ろで組みます。
- 胸を大きく開きながら、肘をできるだけ伸ばし、組んだ両手をゆっくりと下に下げます。
- 肩が上がらないように注意しながら、組んだ手をゆっくりと持ち上げます。
- そのままの姿勢を15~30秒キープします。
広背筋のストレッチ
広背筋は背中の大きな筋肉で、肩を内側に回す(巻き肩)働きがあります。この筋肉が硬くなると、猫背の原因の一つとなります。広背筋をストレッチすることで、肩周りの柔軟性が向上し、正しい姿勢を保ちやすくなります。
- 両腕を頭の上に上げ、片方の手で反対側の肘を頭の後ろで抱えます。
- 抱えている肘をゆっくりと引っ張りながら、体を横に倒します。
- そのままの姿勢を15~30秒キープします。
- 反対側も同様に行います。
斜角筋と僧帽筋のストレッチ
斜角筋は首の横に位置し、首を横に傾ける動きに関わっています。僧帽筋は首から肩、背中にかけて広がる大きな筋肉で、上部、中部、下部の線維に分かれています。ストレートネックになると、斜角筋と僧帽筋の上部線維が過度に緊張し、肩こりや首の痛みの原因となります。これらの筋肉をストレッチすることで、首や肩の緊張を和らげることができます。
- 左手を右側の頭の側面に添えます。
- 手の重みだけを利用して、頭をゆっくりと左に倒します。首の右側の筋肉が伸びるのを感じながら、15~30秒キープします。
- 次に、左手で右側の頭の後ろ側の少し下の部分を押さえ、頭を左斜め前にゆっくりと倒します。首の右側のやや後方の筋肉が伸びるのを感じながら、15~30秒キープします。
- 反対側も同様に行います。右手で左側の頭の側面に添えて右に倒すストレッチと、右手で左側の頭の後ろ側の少し下の部分を押さえて右斜め前に倒すストレッチを行います。
ストレッチに加えて、姿勢の見直しを
ストレッチを行うことはもちろん重要ですが、日常生活での姿勢の見直しも同じくらい大切です。デスクワークやスマートフォン操作など、顔が下を向いたり、顎が前に突き出たりする姿勢が長時間続く場合は、無意識のうちに頭が体の軸よりも前に傾いた姿勢で固定されてしまいます。頭が前に傾くと、その重さが首に直接かかり、首への負担が著しく増加します。
特にノートパソコンを使用する場合は、画面の高さを調整することで、首の前傾を軽減することができます。ノートパソコンの下に台を置いたり、別売りのモニターを使用したりするなどの工夫をしてみましょう。
サポーターでストレートネック対策を
デスクワークやスマートフォン操作など、集中して作業している最中は、どうしても姿勢への意識が薄れてしまいがちです。そのような時に、首をサポートするサポーターを取り入れるのも有効な手段の一つです。サポーターを着用することで、首が過度に前に倒れるのを防ぎ、首への負担を軽減することができます。ただし、サポーターはあくまで補助的な役割であり、根本的な改善には日頃の姿勢の見直しやストレッチが不可欠であることを理解しておきましょう。
まとめ
ストレートネックは、現代社会における生活習慣病とも言えるもので、放置すると様々な不調を引き起こす可能性があります。しかし、日頃から正しい姿勢を意識し、適度な運動やストレッチを取り入れることで、改善や予防が可能です。スマートフォンやパソコンとの付き合い方を見直し、首に優しい生活を送るように心がけましょう。もし、症状が改善しない場合は、専門医に相談することをおすすめします。