「神経痛が原因なのか、太ももがしびれる」「この腰の痛みは坐骨神経痛かもしれない」など、日常生活で「神経痛」という言葉を耳にしたり、自身で使ったりすることがよくあります。しかし「神経痛」とは正式な病名ではなく、痛みの症状を指す一般的な呼び方です。つまり、神経痛という症状の裏には、その痛みを引き起こしている別の病気や要因が存在する場合が多いのです。本記事では、神経痛とは何か、その種類や主な原因、そして痛みへの対処法についてわかりやすく詳しく解説します。
神経痛とは?
神経痛(しんけいつう)とは、末梢神経が何らかの刺激や圧迫を受けることで起こる痛み全般を指す言葉です。神経が刺激されて生じる痛みは、鋭い電気が走るような痛みや、チクチク・ズキズキする痛み、場合によってはしびれや麻痺感を伴うこともあります。私たちが普段「神経痛」と呼んでいる症状の多くは、この末梢神経のトラブルによって引き起こされているものです。
神経痛には大きく分けて二つの種類があります。一つは原因となる病気やけがが特定できる「症候性神経痛」、もう一つは検査をしても明確な原因が見つからない「特発性神経痛」です。症候性神経痛の場合、その痛みは何らかの疾患や異常の症状として現れており、根本原因を治療することで痛みの改善が期待できます。一方、特発性神経痛は検査をしても原因が分からないタイプの神経痛で、ストレスや体の冷えなど生活上の要因が関連しているのではないかとも言われます。
このように、「神経痛」という言葉自体は病名ではなく症状の名称であり、その背後には様々な原因が潜んでいます。次の章では、代表的な症候性神経痛の種類とそれぞれの特徴について見ていきましょう。
症候性神経痛の主な種類
症候性神経痛とは、明確な原因となる疾患や要因があって生じる神経痛のことです。私たちが「神経痛」としてよく耳にする症状の多くは、この症候性神経痛に分類されます。ここでは代表的な症候性神経痛の種類と、その特徴について解説します。
坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)
坐骨神経痛は、お尻から太もも、ふくらはぎ、足先にかけて走る鋭い痛みやしびれが特徴です。腰から足に伸びる人体で最も太い神経である「坐骨神経」が圧迫・刺激されることで生じます。主な原因としては、腰椎の椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)など腰の疾患が挙げられます。これらの疾患で腰の神経が圧迫されると、その支配領域である下半身に痛みやしびれが放散します。症状がひどい場合には、長時間同じ姿勢でいることが難しくなったり、歩行に支障をきたすこともあります。
肋間神経痛(ろっかんしんけいつう)
肋間神経痛は、肋骨に沿って走る肋間神経の痛みで、背中から胸にかけての鋭い痛みや違和感として現れます。深呼吸や体をひねる動作、大きな声を出すことなどで痛みが悪化することが多いです。原因は多岐にわたり、肋骨や背骨の骨折・変形、帯状疱疹(たいじょうほうしん)ウイルスによる感染(※帯状疱疹については後述)、肋骨周辺の筋肉の炎症などがあります。また、ストレスや疲労が引き金となって肋間神経痛が起こるケースも報告されています。
肋間神経痛になると、あたかも胸や背中が締め付けられるような痛みを感じることがあり、日常生活でも息苦しさや動作の制限につながります。
三叉神経痛(さんさしんけいつう)
三叉神経痛は、顔面に分布する三叉神経が刺激されて起こる激しい痛みです。顔の片側に電撃が走るような鋭い痛みが数秒から数十秒ほど続き、会話や食事、歯磨きといった日常の何気ない動作が引き金となって発作的に痛みが起こることが特徴です。原因としては、脳内で血管が三叉神経を圧迫しているケースが多く報告されています(血管圧迫型)。まれに脳腫瘍や多発性硬化症などが関連する場合もありますが、多くは画像検査でも異常が見られず原因が特定できません。
三叉神経痛の痛みは非常に強いため、顔を洗ったり風に当たったりすることさえ怖くなるほどで、生活の質を大きく低下させる可能性があります。
帯状疱疹後神経痛(たいじょうほうしんごしんけいつう)
帯状疱疹後神経痛は、いわゆる帯状疱疹(ヘルペスウイルスの一種である水ぼうそうウイルスの再活性化によって起こる皮膚の疾患)が治った後にも残る神経の痛みです。帯状疱疹自体は皮膚に赤い発疹や水ぶくれを生じさせる病気ですが、その際に神経を侵すため、皮膚の症状が治まった後も神経へのダメージが残ることがあります。
その結果、患部だった箇所(多くは体の片側の一定の範囲)に、焼けつくような痛みやしびれが長期間続くことがあります。帯状疱疹後神経痛は高齢者に多く、痛みが数ヶ月から数年にわたり慢性化するケースもあります。
原因不明の特発性神経痛
明確な原因が見つからない特発性神経痛も存在します。医師の診察やレントゲン・MRIなどの画像検査を行っても神経を圧迫するような異常所見がなく、原因疾患が特定できない場合にこの特発性神経痛と診断されます。
特発性神経痛は、症状としては坐骨神経痛や肋間神経痛などと同じような痛みが生じるものの、痛みの引き金となっている病気が確認できない点が異なります。一説には、ストレスの蓄積や冷えによる血行不良、自律神経の乱れなどが関与している可能性も指摘されています。
このタイプの神経痛では、痛み自体への対症療法や生活習慣の改善によるケアが中心となります。
神経痛の対処法
神経痛の症状が現れた場合、痛みを和らげるための対処と、根本原因への対応が重要です。痛みが軽度であれば自宅でのケアで様子を見ることもできますが、長引く場合や生活に支障をきたすような強い痛みの場合は早めに医療機関を受診しましょう。ここでは、神経痛への主な対処法を紹介します。
医療機関の受診
神経痛と思われる症状が続くときは、早めに専門の医療機関を受診することが大切です。痛みの原因が腰や首など整形外科領域にあると考えられる場合は整形外科へ、顔面の痛みであれば神経内科や脳神経外科へ相談するとよいでしょう。
医師は問診や診察、必要に応じてMRIなどの画像検査を行い、神経痛の原因を特定します。例えば椎間板ヘルニアや帯状疱疹など原因疾患が見つかれば、その治療(外科的処置や薬物療法など)を行うことで神経痛の症状改善が期待できます。原因が特定できない場合でも、痛みを抑えるための薬や理学療法(リハビリテーション)などの対症療法で症状緩和を図ります。
鎮痛剤の使用
痛みが強いときには、市販の鎮痛剤(痛み止め)を一時的に服用することで症状が和らぐ場合があります。一般的な解熱鎮痛薬(イブプロフェンやアセトアミノフェンなど)は、神経痛の痛みに対しても一定の効果を発揮することがあります。
ただし、鎮痛剤はあくまで一時的に痛みを緩和する手段であり、根本的な治療ではありません。長期間にわたって頻繁に服用することは副作用のリスクもあるため避けましょう。慢性的な神経痛で市販薬では効果が不十分な場合は、医師に相談して処方薬(神経痛に特化した薬やより強力な鎮痛剤など)を検討してもらうことが必要です。
生活習慣の見直し
日頃の生活習慣を整えることで、神経痛の予防や症状緩和につながる場合があります。特に原因が特定できない特発性神経痛では、生活習慣の改善が症状改善の鍵となります。以下のようなポイントに注意してみましょう。
- 正しい姿勢を保つ: 長時間同じ姿勢で過ごすことを避け、デスクワーク時にはときどき立ち上がって体を伸ばすようにします。猫背や反り腰といった不良姿勢は神経への負担となるため、普段から姿勢を正すことを心がけましょう。
- 適度な運動を行う: ウォーキングやストレッチなど無理のない範囲で体を動かし、筋肉を適度に鍛えましょう。運動によって血行が促進されることで神経周囲の炎症が軽減したり、筋力アップによって腰痛の原因となる負担を減らしたりする効果が期待できます。
- 身体を冷やさない: 冷えは神経痛の症状を悪化させる一因とされます。寒い季節は適切な防寒を心がけ、入浴でしっかり身体を温めて血流を良くするようにしましょう。特に末梢の血行が悪くなると神経への栄養供給が滞り、痛みが出やすくなると言われます。
- ストレスを溜めない: 精神的なストレスは痛みの感じ方に影響を与えることがあります。十分な睡眠と休息をとり、趣味やリラクゼーション法で上手にストレス発散することも大切です。心身の緊張が緩和されると、痛みの閾値(感じやすさ)が高まり症状が和らぐことがあります。
これらの生活習慣の見直しは、神経痛そのものの予防になるだけでなく、既にある痛みを軽減する助けにもなります。日常生活でできることから少しずつ取り入れてみましょう。
まとめ
「神経痛」は病名ではなく、さまざまな原因によって起こる痛みの総称です。坐骨神経痛、肋間神経痛、三叉神経痛、帯状疱疹後神経痛など、代表的な神経痛にはそれぞれ椎間板ヘルニアやウイルス感染などの原因疾患があります。一方、原因が特定できない特発性神経痛も存在します。神経痛の痛みを和らげるには、まず原因を突き止めて適切な治療を受けることが重要です。さらに、日頃から姿勢を正す・適度に運動するといった生活習慣の見直しも予防や症状の軽減に役立ちます。適切な対処を続けることで、神経痛によるつらい症状が和らぎ、日常生活をより快適に過ごせるようになるでしょう。