炭水化物の一種であるでんぷんは、通常、小腸でブドウ糖まで分解されてエネルギー源となります。しかし、近年注目されている「レジスタントスターチ」は、その名の通り消化液や消化酵素の働きに「抵抗するでんぷん」であり、ほとんどが小腸で吸収されず大腸まで届くという特徴を持ちます。大腸まで届いたレジスタントスターチは、腸内細菌と作用してさまざまなメリットをもたらすことがわかってきました。
本記事では、レジスタントスターチの基礎的な知識や、その働きが食物繊維とどう違うのか、腸内環境への影響、さらに効率よく摂取する方法と注意点について解説していきます。日々の食生活を見直したい方や、腸内環境を整えて健康維持を目指したい方は、ぜひ最後までご覧ください。
レジスタントスターチとは
「レジスタントスターチ」は、直訳すると「消化に抵抗するでんぷん」という意味です。国際的な定義では、「健康な人の小腸において消化・吸収されることのないでんぷんおよびでんぷんの部分消化産物の総称」とされています。通常のでんぷんであれば、消化酵素によって細かく分解され、ブドウ糖となって小腸から吸収されます。しかし、レジスタントスターチはこのプロセスに対して抵抗性が強いため、小腸では分解されず、大腸まで届くのが大きな特徴です。
一般的に、炭水化物の中でも主に穀類やイモ類に含まれる「でんぷん」は、人体にとって重要なエネルギー源になります。一方、レジスタントスターチもでんぷんの一種でありながら、ほとんどが直接エネルギーにならないという性質を持ち、腸内細菌にとってのエサとなる役割を果たします。この働きが、腸内環境のバランスをサポートする上で注目を集めているのです。
レジスタントスターチの種類
レジスタントスターチは、その性質や発生する過程によって大きく5種類に分類されます。ここでは代表的な例を簡単に紹介します。
- RS-1:食品の細胞壁が硬く、消化酵素が入り込みにくいために消化されにくいタイプ
- RS-2:生のでんぷんや高アミロースの食品など、結晶構造が消化酵素をブロックしているタイプ
- RS-3:加熱後、冷却によって再結晶化された「老化でんぷん」と呼ばれるタイプ
- RS-4:化学的な加工処理によって、消化酵素に強い抵抗性をもたせたタイプ
- RS-5:でんぷんが脂肪と複合体を形成し、消化されにくくなったタイプ
たとえば、RS-3の代表的な例としては、炊いた後に冷ましたご飯があります。温かい状態から冷やすと、でんぷんが再結晶化し、消化酵素の影響を受けにくくなるのです。これらの種類をうまく活用すると、日常の食生活の中でレジスタントスターチを増やせる可能性があります。
レジスタントスターチと食物繊維の違い
「難消化性炭水化物」と聞くと、レジスタントスターチだけでなく「食物繊維」を思い浮かべる方が多いかもしれません。では、レジスタントスターチと食物繊維は全く別物なのでしょうか。実は、2018年以降の測定基準により、レジスタントスターチは食物繊維の一種として扱われるようになっています。
食物繊維とは
「食物繊維」とは、人間の消化酵素ではほとんど分解されにくい成分の総称です。食物繊維の摂取には、満腹感の維持や糖や脂肪の吸収抑制、腸のぜん動運動を促進して便通を改善するといった働きが知られています。具体的には、野菜や果物、きのこ、海藻などを摂ることで食物繊維を補えますが、食材によって「水溶性」「不溶性」など性質が異なる点にも注目されてきました。
レジスタントスターチは食物繊維の一種
元々はレジスタントスターチが食物繊維と区別されていた時期もありますが、現在では国際基準の測定方法に合わせる形で「発酵性食物繊維」の一つに分類されます。特に、レジスタントスターチは腸内細菌による発酵を受けやすい「高発酵性食物繊維」とされ、その結果、後述する短鎖脂肪酸の生成を促すことが明らかとなっています。
でんぷん性多糖類と非でんぷん性多糖類
食物繊維と一口にいっても、その構造は多岐にわたります。レジスタントスターチや難消化性デキストリンのような「でんぷん性多糖類」と、オリゴ糖やセルロースなどの「非でんぷん性多糖類」があるのが大きな特徴です。前者はブドウ糖が多数結合した構造を持つため、本来はエネルギー源となり得ますが、難消化性ゆえに直接的なカロリーにはほとんど寄与しません。一方、非でんぷん性多糖類はそもそもブドウ糖を含まないため、同じ食物繊維であっても栄養学的特性には違いがあります。
レジスタントスターチが腸内環境に与える影響
レジスタントスターチは大腸まで届き、そこで腸内細菌によって善玉菌のエサになります。その際に様々なメリットが生み出されることが報告されています。ここでは、腸内環境への代表的な影響を見ていきましょう。
善玉菌を増やす
腸内には、「善玉菌」や「悪玉菌」、さらには優勢な菌に合わせて行動を変える「日和見菌」が存在し、これらが腸内フローラを形成しています。腸内環境を保つためには、善玉菌が優勢の状態を維持することが大切です。レジスタントスターチは善玉菌の増殖を助け、その活動をサポートするとされます。特に、大腸の下部に住み着く善玉菌までエサを届けることができる点が注目される理由の一つです。
短鎖脂肪酸を産生する
レジスタントスターチが腸内細菌に発酵されると、「短鎖脂肪酸」と総称される酪酸、酢酸、プロピオン酸などが作り出されます。これらの中でも特に「酪酸」が多く生成されやすいといわれており、腸内環境や全身の健康維持に以下のような効果をもたらします。
- 悪玉菌の増殖を抑える:短鎖脂肪酸によって腸内が弱酸性になり、悪玉菌の働きが抑制される
- 腸の粘膜をサポート:酪酸は大腸上皮細胞のエネルギー源となり、腸のバリア機能を助ける
- 腸のぜん動運動を促進:大腸の動きが活発になり、便通をスムーズにする
- 糖や脂質の代謝を促す:血糖コントロールや脂質代謝に良い影響を与えやすい
こうした働きにより、短鎖脂肪酸は腸内環境だけでなく免疫力や栄養素の代謝など、幅広い健康面で鍵を握っています。
免疫機能への影響
体外からの細菌やウイルスが侵入しやすい腸管には、実に全身の約7割もの免疫細胞が集まっているといわれます。酪酸を中心とした短鎖脂肪酸は、腸粘膜のバリア機能を高め、さらに免疫グロブリンA(IgA)の働きをサポートすることで、病原体から体を守る助けになると考えられています。腸の健康状態が全身の免疫と深く関わっているという点は、現代の健康管理において注目を浴びるテーマの一つです。
レジスタントスターチを摂取するときの注意点
レジスタントスターチはイモ類や穀物類、豆類など、比較的身近な食材に含まれています。ただし、闇雲にでんぷん豊富な食品を多量に摂取するとカロリー過多になる恐れがあるため、ポイントを押さえて効率良く取り入れることが大切です。
冷やご飯のすすめ
レジスタントスターチを効率的に摂取するなら、RS-3型でんぷんを意識するのがおすすめです。たとえば、炊いたご飯を一度冷やすと、温かい状態のときとは違って粘りが減少します。これは、でんぷんが再結晶化して消化されにくい構造に変化した証拠です。具体的には、以下のような手順を取り入れると良いでしょう。
- ご飯を炊いたら常温で少し冷まし、その後冷蔵庫で保存する
- 食べる際は温め直さず、冷えた状態や常温に戻した状態で食べる
再加熱で60℃程度まで温度が上がると、結晶化したでんぷんの大半は元の形にもどりやすいとされています。おにぎりやお弁当のように冷えたままでも美味しく食べられる工夫をすれば、より多くのレジスタントスターチを摂取できるでしょう。
過剰摂取によるデメリット
腸内で発酵が活発に進むとガスが多く発生し、お腹の張りを感じたり、下痢気味になってしまう場合があります。これは、レジスタントスターチが持つメリットの一つでもある発酵作用が過剰に働いた結果です。腸内環境を整えるために取り入れ始めた場合、少しずつ摂取量を増やすなど、体調を見ながら加減することが大切です。
ビタミンB12不足にも注意
レジスタントスターチを大量に摂取すると、大腸内で「プロピオン酸」が生成される過程で「コハク酸」という物質が生じます。このコハク酸をプロピオン酸に変換する際に必要なのが「ビタミンB12」です。もしビタミンB12が不足していると、コハク酸が処理されにくくなり、腸内環境に悪影響を及ぼす可能性があります。したがって、レジスタントスターチばかり意識するのではなく、肉・魚・卵などの良質なタンパク質源も適度に摂取して、ビタミンB12をしっかり補うことを心がけましょう。
まとめ
レジスタントスターチは、消化酵素に対する抵抗性を持つ特別なでんぷんです。腸内まで届いて善玉菌を増やすサポートをしたり、短鎖脂肪酸を産生して腸の動きや免疫機能、栄養代謝にプラスの影響を与えたりするなど、多岐にわたる健康メリットが期待されています。その一方で、摂りすぎるとガスや下痢などのトラブルを招いたり、ビタミンB12不足への注意が必要だったりと、いくつかの留意点もあります。
とはいえ、イモ類や米、豆類など、ごく身近な食材の中にもレジスタントスターチは存在します。特に冷やご飯の活用など、日常生活の中で取り入れやすい工夫を取り入れながら、「摂りすぎず、バランス良く」が基本です。腸内環境を整えることで便通や免疫力アップにつながることもありますので、興味のある方はぜひ少量から試してみてください。食生活全体のバランスをとりながら、レジスタントスターチで健やかな腸を目指しましょう。