はじめに
立ち上がるたびに膝がギシギシ軋む、階段を下りるとズキッと痛む──こうした膝痛は年齢や運動経験に関係なく誰にでも起こり得ます。整形外科で「変形性膝関節症」「半月板損傷」と診断されても、保存療法の中心は薬とリハビリ指導のみで、うまく痛みが引かない人も多いのが現状です。そこで注目されているのが“整骨院での専門施術”と“機能改善型リハビリテーション”の組み合わせ。本記事では初心者にもわかりやすく、整骨院で受けられる膝痛ケアの全体像とセルフケアのポイントを解説します。
整骨院とは?医療機関との違い
整骨院(接骨院)は、柔道整復師という国家資格者が手技療法・物理療法・運動療法を用いて筋骨格系の痛みを改善する施設です。外傷(骨折・脱臼など)以外の慢性痛は自由診療が中心ですが、医師の診断が済んでいれば医療機関と並行して通院できます。
| 比較項目 | 整形外科 | 整骨院 |
|---|---|---|
| 主な役割 | 診断・画像検査・投薬・手術 | 手技療法・運動療法・姿勢矯正 |
| 画像検査 | X線、MRI、CT | 原則なし(紹介状で検査依頼) |
| 施術時間 | 5〜10分 | 20〜40分 |
| 料金 | 保険診療中心 | 自由診療が多い |
| リハビリ機器 | 物理療法+理学療法士の運動指導 | 電気・超音波+パーソナル運動指導 |
初回来院から施術開始までの流れ
- カウンセリングと問診
痛みの場所・強度・発症シチュエーション、既往歴、スポーツ歴などをヒアリング。 - 視診・触診・動作分析
O脚角度、膝蓋骨の位置、歩行パターン、片脚スクワット時の膝アライメントを評価。 - 徒手テスト
McMurrayテストで半月板、Lachmanテストで前十字靱帯、バランステストで神経‐筋協調を検査。 - 評価と目標設定
痛みスコア、可動域、筋力を数値化し、短期(4週で立ち上がり痛50%減)と長期(12週で階段痛ゼロ)の目標を共有。 - 施術プラン作成
手技療法・物理療法・運動療法・生活指導を組み合わせた個別プログラムを提示。
整骨院で受けられる主な専門施術
骨格・関節モビライゼーション
硬くなった脛骨回旋や膝蓋大腿関節の滑りをソフトに誘導し、関節内圧を下げて痛みを和らげます。
筋膜リリース
股関節周囲〜大腿前後面の筋膜をストレッチング&スライドで解放し、膝への過剰ストレスを緩和。フォームローラーのセルフ手技も指導します。
トリガーポイント療法
大腿四頭筋、内側広筋、腸脛靱帯近位部の圧痛点を徒手圧迫や低周波鍼通電で鎮静化。関連痛により膝だけでなく腰・足首の隠れた原因も探ります。
ハイボルテージ電気刺激
150V前後の高電圧を浅層~深層筋に数十分間流し、疼痛抑制と筋の再教育を同時に実施。術後や急性炎症の浮腫軽減にも有効。
超音波・LIPUS
1MHz/3MHzの深層温熱で代謝を高め、低出力超音波(LIPUS)は骨折遅延癒合や半月板修復促進のエビデンスが報告されています。
テーピング・ニーブレース
キネシオテープで膝蓋骨のトラッキングを補整し、外側荷重をオフロードする三次元ヒンジ付ブレースでO脚変形の進行を抑制。
鍼灸併用
東洋医学的に「血海」「陽陵泉」など膝周辺の経穴へ刺鍼し、神経調節と血流改善をダブルで狙うケースもあります。
リハビリテーションのステップガイド
| 期間 | 目標 | 主なプログラム |
|---|---|---|
| 急性期(痛みピーク〜2週) | 炎症コントロール・可動域維持 | RICE処置、アイソメトリック大腿四頭筋セッティング、足関節ポンプ運動 |
| 回復期(2〜6週) | 筋力回復・正しい動作再学習 | レッグレイズ、クラムシェル、ヒップヒンジ、可動域全域の自重スクワット |
| 機能向上期(6〜12週) | 日常動作・スポーツ動作への復帰 | チューブレジスタンス、スタビライゼーション、片脚ランジ、プライオメトリクドリル |
| 維持期(3か月以降) | 再発予防とパフォーマンス向上 | ウェイトトレーニング、トレッドミルインターバル、バランスディスク、フォームチェック |
コアエクササイズ例
- ウォールスクワット
背中を壁に付け、膝を90度まで曲げて5秒キープ×10回。大腿四頭筋と臀筋を同時活性。 - サイドステップウオーク(セラバンド)
膝上にバンドを巻き、膝が内側へ入らないよう意識しながら左右へ5歩ずつ×3セット。中殿筋強化で膝内側荷重を減らす。 - ヒップリフト+ニーアライメント
仰向けで骨盤を持ち上げ、両膝にボールをはさみ内転筋を同時収縮。臀筋と内転筋のココナッツ構造で膝安定化。
生活習慣・セルフケアのポイント
体重管理
体重1kg減で膝関節への荷重は平地歩行で約3kg、階段下りで約6kg軽減すると言われています。PFCバランスを意識した食事管理と、1日7,000歩のウォーキングを併用しましょう。
フットウェア選び
かかとカップが硬く、前足部がやや広めのウォーキングシューズが◎。ヒールカップインソールや外側ウェッジでO脚荷重を補整すると痛み軽減効果が高まります。
ホームストレッチ3選
- ハムストリングスストレッチ:椅子に浅く座り片脚を前に伸ばし、背筋を伸ばしたまま股関節から前屈20秒×3。
- 大腿四頭筋ストレッチ:立位で足首を持ち、お尻にかかとを近づけ20秒×3。
- ふくらはぎストレッチ:壁に手を付き、片脚を後ろに引いてかかとを床へ20秒×3。
サプリメントは補助と認識
コンドロイチン・グルコサミン・コラーゲンペプチドの臨床効果は限定的。まずは十分なタンパク質(1.0g/体重kg)とビタミンD・Kを食事で確保したうえで、医師や薬剤師に相談して補う程度に留めましょう。
よくある質問(Q&A)
Q1:どれくらい通えば膝痛は改善しますか?
A1:痛みの強さや年齢、運動歴で異なりますが、週1〜2回ペースで4〜6週通うと多数の方が立ち上がり痛や階段痛の50%減を実感しています。重度OAの場合でも12〜16週で日常動作が大幅に楽になる例が多いです。
Q2:整形外科と整骨院を同時に通っても大丈夫?
A2:問題ありません。医師の診断と画像評価をベースに、整骨院で運動療法と姿勢矯正を補完する“ダブル体制”は海外ガイドラインでも推奨されています。
Q3:膝に水がたまったら抜いたほうがいい?
A3:炎症が強い急性期は関節穿刺で除去し、滑膜炎を落ち着かせるのが一般的。ただし頻繁に抜くと関節内のヒアルロン酸濃度が低下するため、整骨院で炎症を抑える物理療法と筋力改善を並行し再発を防ぐことが重要です。
まとめ
膝痛の改善には
- 関節・筋膜・アライメントを整える専門施術
- 筋力・柔軟性・神経協調を回復させるリハビリテーション
- 体重管理・シューズ・ストレッチなどセルフケアの継続
の三位一体アプローチが不可欠です。整骨院は、医療機関ではカバーしきれない「姿勢」「動作」「生活習慣」まで多角的にサポートしてくれる心強いパートナー。痛みを我慢して関節をすり減らす前に、専門家の力を借りて“動ける膝”を取り戻しましょう。