テニス肘(正式名称:上腕骨外側上顆炎)は、肘の痛みを特徴とする疾患で、手や腕への繰り返される負担が主な原因です。「テニス」という名前がついていますが、テニスプレーヤーに限らず、ゴルフ、バドミントンなどのスポーツ愛好家や、反復動作が多い仕事や家事に従事する人にも多く見られます。特に30代後半から50代後半にかけて発症しやすく、生涯で1~3%の人が経験すると言われています。
テニス肘の痛みは、前腕の筋肉の腱が付着する肘の外側の骨の隆起(上腕骨外側上顆)を中心に発生し、前腕や手首にかけて広がることもあります。安静やストレッチ、鎮痛剤などで症状が緩和されることが多いですが、中には痛みが慢性化し、治療が難しくなるケースもあります。
テニス肘の症状とは?
テニス肘の主な症状は、肘の外側を中心とした痛みです。特に、物を握る、タオルを絞る、ドアノブを回すなど、手首を反らす動作や、腕をひねる動作の際に痛みが強くなるのが特徴です。
多くの場合、明らかな外傷をきっかけとせずに、数週間から数ヶ月かけて徐々に痛みが悪化していきます。初期段階では、安静時にはほとんど痛みを感じないこともありますが、症状が進行すると、日常生活に支障をきたすほどの痛みが生じることもあります。
以下のような動作で痛みを感じる場合は、テニス肘の可能性を考慮しましょう。
- ペットボトルの蓋を開ける
- ドアノブを回す
- 重い物を持ち上げる
- キーボードを打つ
- マウスを操作する
テニス肘の原因を詳しく解説
テニス肘は、手や手首を伸ばす筋肉(短橈側手根伸筋など)に繰り返し負荷がかかることで、腱の付着部に微細な損傷が生じることが主な原因です。この損傷が繰り返されることで、腱の組織が変性し、痛みを感じやすい状態になります。
テニス肘のリスクを高める動作としては、以下のようなものが挙げられます。
- テニスのバックハンドストローク
- ゴルフのスイング
- ねじやボルトを締める作業
- 塗装作業
- 肉を切る作業
- ハサミを使う作業
- 長時間のパソコン作業(マウス操作)
- 重量物の運搬
これらの動作は、手首を反らす筋肉や肘周りの筋肉に過度な負担をかけ、テニス肘の発症リスクを高める可能性があります。
テニス肘の病態:何が起きているのか?
繰り返しの微細な損傷によって、腱の組織に変性が生じます。組織レベルでは、腱のコラーゲン線維の配列が乱れ、血管や神経線維が異常に増殖することが確認されています。
これらの変化が、痛みを引き起こしやすい過敏な状態を作り出すと考えられています。炎症性物質の放出、神経の過敏化、腱組織の脆弱化などが複合的に関与し、慢性的な痛みを引き起こします。
テニス肘の診断方法
テニス肘の診断は、問診と身体所見に基づいて行われます。医師は、患者さんの症状、痛みの部位、痛みが悪化する動作などを詳しく聞き取ります。
身体所見では、以下のテストを行います。
- 圧痛の確認: 肘の外側の骨の隆起(上腕骨外側上顆)を押して痛みがあるかを確認します。
- 手首伸展テスト: 肘を伸ばした状態で、手首を反らす動作をしてもらい、肘の外側に痛みが出るかを確認します。
- 中指伸展テスト: 肘を伸ばした状態で、中指を反らす動作をしてもらい、肘の外側に痛みが出るかを確認します。
これらのテストで肘の外側に痛みが生じる場合、テニス肘の可能性が高いと考えられます。
必要に応じて、超音波検査やMRI検査などの画像検査を行うこともあります。超音波検査では、腱の肥厚や炎症、石灰化などを確認することができます。MRI検査では、腱の損傷や炎症の程度をより詳細に評価することができます。
テニス肘の治療法:保存療法から手術まで
テニス肘の治療は、痛みの程度や症状の進行度合いに応じて、保存療法と手術療法のいずれかを選択します。
保存療法
テニス肘の治療の基本は、保存療法です。保存療法には、以下のような方法があります。
- 安静: 痛みのある腕をできるだけ休ませ、負担のかかる動作を避けます。
- ストレッチ: 肘や手首の筋肉を柔軟に保つためのストレッチを行います。
- サポーター: 前腕にサポーターを装着することで、肘への負担を軽減します。
- 鎮痛剤: 痛み止め(内服薬や外用薬)を使用して、痛みを緩和します。
- 理学療法: 温熱療法、電気療法、マッサージなどを用いて、筋肉の緊張をほぐし、血行を促進します。
- ステロイド注射: 痛みが強い場合には、ステロイド注射を行うことがあります。ただし、ステロイド注射は一時的な効果しか期待できず、長期的な効果や副作用については議論があります。
- 多血小板血漿(PRP)注射: 患者自身の血液から抽出した多血小板血漿を患部に注射することで、組織の修復を促進する方法です。保険適用外ですが、近年注目されています。
手術療法
保存療法で十分な効果が得られない場合や、痛みが慢性化している場合には、手術療法を検討することがあります。手術療法には、以下のような方法があります。
- 関節鏡視下手術: 関節鏡を用いて、腱の変性組織を切除したり、神経を剥離したりします。
- 開放手術: 皮膚を切開して、腱の変性組織を切除したり、神経を剥離したりします。
手術療法は、保存療法に比べて侵襲性が高く、合併症のリスクも伴いますが、適切な手術を行うことで、痛みの軽減や機能回復が期待できます。
テニス肘の痛みを和らげるストレッチ
テニス肘の痛みを和らげるためには、肘や手首の筋肉を柔軟に保つことが重要です。ここでは、自宅で簡単にできる2つのストレッチを紹介します。
ストレッチその1:手首伸展筋のストレッチ
- 痛む方の腕を前に伸ばし、肩の高さまで上げます。
- 手のひらを下に向け、肘を伸ばします。
- 反対の手で、痛む方の手の甲を下向きに抑えます。
- 前腕の筋肉が伸びているのを感じながら、15秒間キープします。
ストレッチその2:手首屈筋のストレッチ
- 痛む方の腕を前に伸ばし、肩の高さまで上げます。
- 手のひらを上に向けます。
- 反対の手で、痛む方の手の指先を下向きに抑えます。
- 前腕の筋肉が伸びているのを感じながら、15秒間キープします。
これらのストレッチを1日に数回行うことで、筋肉の柔軟性が向上し、テニス肘の痛みを緩和することができます。
まとめ
テニス肘は、手や腕の使いすぎによって生じる一般的な疾患です。早期に適切な治療を行うことで、多くの場合、症状は改善します。
もし、肘の外側に痛みを感じたら、無理をせずに安静にし、必要に応じて医療機関を受診しましょう。医師の指示に従い、適切な治療とリハビリテーションを行うことで、テニス肘の痛みを克服し、快適な日常生活を取り戻すことができます。
以下に、テニス肘の予防と治療のポイントをまとめます。
- 予防: 手や腕に過度な負担をかけないように注意し、作業前にはストレッチを行う。
- 早期発見: 肘に痛みを感じたら、早めに医療機関を受診する。
- 適切な治療: 医師の指示に従い、安静、ストレッチ、薬物療法などの適切な治療を受ける。
- リハビリテーション: 痛みが軽減したら、徐々に運動強度を上げて、筋力や柔軟性を回復させる。
- 再発予防: 日常生活や仕事での動作を見直し、肘に負担のかからないフォームを意識する。
これらのポイントを実践することで、テニス肘の予防と再発防止に努めましょう。