運動時痛とは
運動時痛(うんどうじつう)とは、運動や身体を動かしている最中に感じる痛みを指します。スポーツをしていて体のどこかが「ズキッ」と痛む経験は、多くの方にあるのではないでしょうか。運動時痛には、運動中に突然起こる鋭い痛みから、運動後しばらくして出てくる鈍い痛みまで、さまざまなタイプがあります。この痛みの正体は一つではなく、筋肉の疲労によるものからケガによるものまで原因はさまざまです。中には「筋肉痛」のように心配のいらない痛みもあれば、ケガや障害のサインとなる痛みもあります。運動時痛を正しく理解し、原因に応じた対処をすることが大切です。
主な原因
運動時痛を引き起こす原因は多岐にわたります。以下に主な原因を挙げ、その特徴を説明します。
– 筋肉による痛み
筋肉を使いすぎたり、急に強い負荷をかけたりすると筋繊維が傷つき、炎症が起きて痛みが生じます。いわゆる筋肉痛や筋肉の張りがこのタイプです。運動直後に起こる急性の筋肉痛や、運動の翌日以降に出る遅発性筋肉痛はいずれも筋肉の微細な損傷と修復過程で起こるため、基本的には心配のいらないケースが多いです。しかし、筋肉の部分断裂(肉離れ)を起こした場合は鋭い痛みとなり、腫れや内出血を伴うことがあります。
– 関節による痛み
関節に過度な負担がかかったときにも痛みが発生します。関節軟骨のすり減りや炎症、半月板や靭帯の損傷などが原因です。例えば膝関節では、ジャンプやランニングの繰り返しで軟骨が擦り減ったり炎症を起こしたりして痛みが出ることがあります。また、肩や股関節などでも、使いすぎや加齢による変形性関節症が進行すると運動時に痛みを感じるようになります。
– 神経による痛み
神経が圧迫・刺激されることで生じる痛みもあります。代表的なのは坐骨神経痛で、腰の椎間板ヘルニアなどによって神経が圧迫されると、腰からお尻、脚にかけて鋭い痛みやしびれが走ります。首の神経が圧迫されると腕にしびれや痛みが出る場合もあり、運動時に症状が強まることがあります。
– 腱・靭帯などの炎症
筋肉と骨をつなぐ腱、関節を支える靭帯などに炎症が起こると、その部位を動かした際に痛みが出ます。テニス肘や野球肘のように肘周辺の腱炎、アキレス腱炎や膝蓋腱炎など、オーバーユース(使いすぎ)で腱・靭帯が損傷し炎症を起こすケースが典型的です。
– ケガ(外傷)による痛み
転倒や捻挫、衝突などによるケガでも痛みが発生します。捻挫や打撲、骨折、脱臼などが代表例です。こうした外傷は発生直後から痛みが強く、腫れや内出血がみられます。重度の損傷の場合、変形が生じたり後遺症が残ったりするリスクがあるため、早めの対応が必要です。
– 生活習慣や準備不足
身体の使い方や日頃の習慣によっても運動時痛が起こりやすくなります。準備運動をしないまま激しい運動をする、急に運動量や強度を上げる、栄養・睡眠不足で回復力が落ちているなどが原因になることがあります。また、体の柔軟性の低下や筋力不足、フォームの誤り、不適切なシューズ・用具の使用も特定の部位に負担をかけ、痛みを招きやすくなります。
主な症状と痛みの特徴
運動時痛の症状は、原因によって現れ方が異なります。痛みの強さ(軽い違和感から激痛まで)、痛むタイミング(運動中や運動後など)、痛む部位の状態(腫れや内出血、熱感、可動域制限の有無)などを把握することで、ある程度原因を推測できます。
良い痛み(生理的な痛み)としては、一般的な筋肉痛や筋肉の張りが挙げられます。これは左右対称に出ることが多く、我慢できる程度の痛みです。数日以内に回復し、むしろ筋肉を強くする過程で起こる正常な反応と考えられています。
一方で、悪い痛み(異常な痛み)はケガや障害が原因であることが多く、鋭い痛みや刺すような痛みが特徴です。特定の部位に集中して起こり、腫れや内出血を伴う場合もあります。安静にしていても痛む、痛みが悪化する、痛みが長期間続くようであれば要注意です。
部位別によくある痛みの症例と特徴
運動時痛は体のあらゆる部位で起こり得ますが、ここでは特に肩・腰・膝・股関節・足首に分けて、よく見られる症例や特徴を解説します。
肩の痛み
肩は腕を大きく動かすスポーツ(野球の投球、テニスのサーブ、水泳のクロールなど)でよく痛めやすい部位です。代表的には腱板断裂やインピンジメント症候群などがあり、肩を繰り返し酷使すると腱が擦れて炎症を起こしたり切れたりして痛みが生じます。痛みは投げる・腕を上げる動作で強くなり、進行すると夜間痛が出ることもあります。中高年には五十肩(肩関節周囲炎)で肩が痛むケースもあり、腕を上げづらい・後ろに回しづらいなど可動域が制限されることも特徴です。
腰の痛み
腰は体幹の中心であり、ほとんどのスポーツ動作に関わるため痛みが生じやすいです。例えば、重いものを持ち上げた際のぎっくり腰(急性腰痛)では突然激痛が走り、動けなくなるほどの症状が出ることがあります。また、腰椎椎間板ヘルニアが原因の坐骨神経痛では、腰から脚にかけてビリビリする痛みやしびれを伴う場合もあります。腰痛を放置すると慢性化しやすいため、違和感を感じたら早めに休息をとってケアすることが大切です。
膝の痛み
膝は走る・跳ぶ・方向転換するといった動作で大きな負荷がかかるため、運動時痛が最も多い部位のひとつです。ランナー膝(腸脛靭帯炎)では膝の外側、ジャンパー膝(膝蓋腱炎)ではお皿(膝蓋骨)の下あたりに痛みが出ます。中高年や長年スポーツを続けている方は変形性膝関節症による軟骨の摩耗が進行し、慢性的な痛みと腫れが現れるケースもあります。また、サッカーやスキーなどで膝をひねった際には前十字靭帯断裂や半月板損傷が発生することもあり、即座に強い痛みと腫れが出るため注意が必要です。
股関節の痛み
股関節(脚の付け根)は走る・蹴る・方向転換などで大きな負担がかかる関節です。サッカーやテニスで急に踏み込んだりキックしたりする際に、太ももの内側や付け根に鋭い痛みが走ることがあります。いわゆる鼠径部痛症候群やグロインペインでは、筋肉・腱・靭帯などが損傷している場合が多く、歩くだけでも痛みが出るようになります。また、変形性股関節症では股関節の軟骨が摩耗し、立ち座りや歩行時に痛みが出ることが特徴です。
足首の痛み
足首は捻挫やアキレス腱など、急性・慢性両面でケガが多発します。着地の失敗や段差で足をひねることで捻挫が起こり、足首の外側に痛みと腫れが出ます。アキレス腱炎ではかかとの上部にズキズキした痛みがあり、進行するとアキレス腱が部分断裂や完全断裂に至ることもあるため要注意です。足の甲の痛みは疲労骨折、足裏の痛みは足底腱膜炎が疑われるなど、足首周りは多岐にわたる障害が存在します。
自分でできる対処法・応急処置
運動中に痛みを感じたら、まずは運動を中断することが大切です。「少し痛む程度」と思って続行すると、軽度の症状が重症化する恐れがあります。痛みが出た直後の応急処置としてはRICE処置が有名です。
– Rest(安静)
患部を安静に保ち、動かさないようにしましょう。必要に応じて副木やテーピングで固定します。
– Ice(冷却)
氷やアイスパックをタオルで包んで患部を15~20分程度冷やします。腫れや内出血を抑える効果があります。
– Compression(圧迫)
弾性包帯などで適度に圧迫し、腫れを軽減します。きつすぎると血行障害を引き起こすので注意しましょう。
– Elevation(挙上)
患部を心臓より高い位置に上げ、腫れを抑えます。横になるときに足や腕を高く保つよう心がけます。
筋肉痛のようにケガではなく軽度の炎症と考えられる場合、運動後は温めたりストレッチで血行を促進することが効果的です。ただし、腫れや内出血がある場合はまずアイシングで炎症を抑える必要があります。市販の湿布や鎮痛剤を使うこともできますが、痛みを誤魔化して運動を続けるのは避けてください。強い痛みや腫れが見られる場合は医療機関を早めに受診しましょう。
予防方法と再発防止策
運動時痛は、日頃のケアや工夫によって予防・再発防止が可能です。
– ウォーミングアップとクールダウン
運動前にジョギングや動的ストレッチで体を温め、関節や筋肉をほぐしておきます。運動後も急に止めず、軽い運動や静的ストレッチでクールダウンしましょう。
– 無理のない運動計画
自分の体力・技術に合った運動強度と頻度を設定します。オーバーユースにならないように注意し、休養日を設けて体を回復させます。
– 筋力・柔軟性の向上
ストレッチや筋トレで関節を支える筋力や柔軟性を高めましょう。特に体幹や下半身の筋力アップは、運動時の衝撃を和らげケガを防ぎます。
– 正しいフォームと適切な道具
ランニングや筋トレなどで誤ったフォームを続けると、特定の部位に過剰な負担がかかります。専門家のアドバイスを受ける、あるいはフォームを動画撮影して確認するなどして正しい動作を身につけましょう。シューズや用具も自分に合ったものを選び、必要に応じてサポーターやテーピングを活用してください。
– 体調管理と生活習慣
睡眠不足や栄養不足は回復力を落とし、ケガのリスクを高めます。タンパク質やビタミン、ミネラルをバランス良く摂取し、適正体重を維持しましょう。
病院に行くべきサイン
運動時痛の中には自己ケアで回復するケースも多いですが、以下のようなサインがある場合は医療機関の受診をおすすめします。
– 我慢できない激しい痛みや運動不能
突然強い痛みが走って立ち上がれない、腕が動かせないなどの場合。
– 腫れや変形が大きい
関節が明らかに腫れたり変形しているなど、通常の筋肉痛とは異なる症状が見られる場合。
– しびれや麻痺を伴う
痛みとともに手足のしびれ、力が入らない、感覚が鈍いなど神経症状がある場合。
– 痛みが長引く
安静にしても1週間以上痛みが改善しない、あるいは症状が悪化する場合。
– 受傷時に異音や違和感があった
ひねった際や衝突時に「ブチッ」「ボキッ」という音を感じ、強い痛みや腫れが出た場合。
無理を続けて症状を悪化させると、完治まで時間がかかるだけでなく後遺症のリスクも高まります。「おかしいな」と思ったら迷わず専門医に相談しましょう。
病院で行われる診断と治療法の例
整形外科などを受診すると、痛みの原因を特定するために問診や視診・触診、場合によってはレントゲン検査やMRI検査、超音波検査などが実施されます。そこから骨や軟部組織の状態、神経圧迫の有無などを調べ、原因を確認します。
軽度のケガや炎症であれば、消炎鎮痛剤や湿布の使用、患部の安静など保存療法で経過を見ます。痛みを抑える注射(局所麻酔剤やステロイド剤)や理学療法(リハビリ)でストレッチや筋トレを行い、再発防止や機能回復を目指すこともあります。重度のケガや障害では手術が検討されるケースもあり、靭帯再建や関節鏡視下手術、骨折の固定手術などが選択肢となります。
いずれの場合も早期発見・早期治療が原則です。自己判断で放置してしまうと、症状が長引いたり後遺症を残したりする可能性があります。専門医の判断を仰ぎ、適切な治療を受けることが、痛みからの早い回復と再発防止につながります。
まとめ
運動時痛は、誰にでも起こり得る身近な症状です。その原因は軽い筋肉の炎症から重度のケガ、生活習慣の乱れまで幅広く、症状も痛むタイミングや強度によって異なります。少しの痛みであっても運動を中断して適切に対処し、RICE処置や休息を取り入れることで、多くの痛みは改善へ向かいます。しかし、痛みが強い・腫れや変形が大きい・しびれを伴うなどの場合は早めに専門医に相談しましょう。日頃からウォーミングアップやクールダウン、筋力や柔軟性の強化、正しいフォームを身につけること、そして十分な休養と栄養を確保することが運動時痛の予防と再発防止に役立ちます。痛みとうまく付き合いながら、安全かつ快適なスポーツライフを続けていきましょう。