「乳酸菌」という言葉は、多くの人に「体によい菌」というイメージを持たれています。しかし、実際にどのような働きをし、具体的に何をサポートしてくれる菌なのかを正確に説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。
本記事では、乳酸菌の特徴や体へのメリット、さらに乳酸菌をより効果的に取り入れる方法などをわかりやすく解説します。便秘や肌荒れ、免疫力など気になる体調面をサポートするためにも、ぜひ乳酸菌について正しく理解し、ご自身の食生活や生活スタイルに役立ててみてください。
乳酸菌とは何か
乳酸菌とは、糖類を分解して多量の乳酸を産生する細菌の総称です。実は「乳酸菌」という名前は1種類の菌を指しているわけではなく、様々なタイプの菌のグループを示す言葉となっています。善玉菌を代表する菌として、同じく有名な「ビフィズス菌」などとともに、腸内で大切な役割を担っていることで知られています。
腸内細菌は大きく分けて、健康維持を助ける「善玉菌」、体によくない影響を与える「悪玉菌」、そして状況次第でどちらにも傾く「日和見（ひよりみ）菌」の3種類に分類されます。その中でも、乳酸菌やビフィズス菌は善玉菌の代表格として広く認知されています。
乳酸菌とビフィズス菌の違い
乳酸菌とビフィズス菌はいずれも善玉菌ですが、その生息環境や産生物質に違いがある点が特徴です。
乳酸菌は酸素の有無にかかわらず生息できるため、小腸下部から大腸まで幅広く存在しています。一方で、ビフィズス菌は酸素を嫌う性質があるため、大腸のように酸素濃度が低い環境で主に生息しているのです。
さらに、乳酸菌は「乳酸」を産生し、ビフィズス菌は「乳酸と酢酸」を産生するという違いもあります。いずれにしても、お互いに悪玉菌の増殖を抑制したり、腸内環境を整える点において協力し合っています。
乳酸菌の効果
腸内フローラ（腸内細菌叢）のバランスを整える
人間の消化管には、約1,000種類、100兆個もの細菌が存在しています。それらの集合体を「腸内フローラ」もしくは「腸内細菌叢（ちょうないさいきんそう）」と呼びます。腸内細菌を善玉菌・悪玉菌・日和見菌の3種類で分けた場合、理想的なバランスは「善玉菌2：悪玉菌1：日和見菌7」とされます。
このバランスが崩れて悪玉菌が優勢になると、便秘や肌荒れ、免疫力低下などのトラブルにつながる可能性があります。そこで役立つのが善玉菌の代表である乳酸菌です。乳酸菌が腸内で糖を分解し、乳酸を生成することで腸内を弱酸性に保ち、アルカリ性を好む悪玉菌の増殖を抑えてくれます。
酪酸菌を増やす
腸内には乳酸菌やビフィズス菌以外にも、「酪酸菌」と呼ばれる善玉菌が存在しています。酪酸菌は主に酪酸を産生し、腸内の腐敗を防いだり、ほかの善玉菌と共生して整腸作用を発揮しているのが特徴です。
実は、乳酸菌によって酸性化された環境は、酪酸菌をはじめとした善玉菌全体が増殖しやすい土壌でもあります。乳酸菌やビフィズス菌が作り出す乳酸や酢酸などのおかげで、悪玉菌が増えにくい環境が整い、結果的に酪酸菌も含めた善玉菌全体をサポートするのです。
また、口から摂取した乳酸菌は多くが胃酸で死滅しますが、死んだ菌（死菌）であっても腸内では善玉菌のエサとなり、善玉菌の増殖に役立つことがわかっています。さらに、菌体成分そのものが免疫や炎症反応に影響を与えることも指摘されており、生菌・死菌を問わず乳酸菌の恩恵を得られる可能性があるのです。
便秘予防やビタミン産生など
乳酸菌には、腸の蠕動運動（ぜんどううんどう）を促して便秘を予防する働きがあります。便秘が解消されれば、悪玉菌が増殖しにくい環境をつくることにもつながります。また、善玉菌は体内でビタミンを産生したり、免疫機能のバランスを整えたりと、多岐にわたって健康維持に関わっています。
特に近年の研究では、腸の内壁を覆う粘液層のバリア機能の強化や、感染症や炎症を抑制する働きへの注目が集まっています。こうした働きによって、腸内フローラが整った状態を保ちやすくなるというわけです。
一日に必要な乳酸菌の摂取量
腸内には100兆個もの細菌がおり、善玉菌・悪玉菌・日和見菌が勢力を競い合っています。この中で善玉菌を優位に保つためには、毎日それなりの量の善玉菌を摂取して、腸内での“味方”を増やすことが重要です。
科学的に整腸作用が確認された乳酸菌でも、1日あたり約100億個程度の菌を摂り続ける必要があるという報告があります。また、乳酸菌を摂取する際には「毎日継続すること」が大切です。1日だけ大量に摂取しても、翌日以降に摂らなければ善玉菌を優位に保つことは難しくなってしまいます。
摂り過ぎるとどうなる？
余分に摂取した乳酸菌は、最終的に便として排泄されます。しかし、発酵乳製品などで乳酸菌をたくさん取り込もうとすると、脂質や糖質、塩分などを過剰に摂ってしまう可能性がある点には注意が必要です。過剰な摂取は肥満や高血圧など、健康に悪影響を与えるリスクを高めます。
適量を意識して、乳酸菌を上手に摂り入れることが腸内環境改善の近道です。
乳酸菌を含む食品例
乳酸菌を多く含む食品としてヨーグルトやチーズなどの発酵乳製品が真っ先に思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。これらは欧米発祥のイメージが強いですが、実は世界各地で古くから作られ、日本でも奈良時代には似たものが存在したとされています。
一方、日本では味噌や醤油、漬物など植物性の発酵食品が発達し、私たちの食文化に根付いてきました。これらの食品も豊富な乳酸菌を含んでおり、「和食」の土台を支えています。加えて、納豆のように納豆菌が含まれた食品にも乳酸菌が潜んでいる場合があります。
最近では「乳酸菌飲料」として、飲みやすく加工された商品が数多く市販されています。選び方次第で、バリエーション豊富に乳酸菌を摂取できるので、ぜひライフスタイルに合わせて活用してみてください。
乳酸菌の効果的な摂取方法
食物繊維と一緒に摂る
かつて消化されにくい「かす」とみなされていた食物繊維ですが、現在では「第6の栄養素」として見直され、その重要性が広く認められるようになりました。
食物繊維は、乳酸菌をはじめとした善玉菌にとってエサの役割を果たすだけでなく、腸内の動きを活発にし便秘を予防する手助けもしてくれます。便秘が解消されれば悪玉菌が増えにくくなるため、乳酸菌をしっかり活かしたい方は、きのこ類や精製度の低い穀類、野菜などの食物繊維豊富な食材もあわせて取り入れてみましょう。
悪玉菌の活動を助ける食品の摂り過ぎに注意
肉類などタンパク質や脂質を過度に摂取すると、腸内で腐敗物質を生みやすい悪玉菌が増えがちです。悪玉菌が増えると、日和見菌が悪玉菌側につきやすくなり、腸内環境は一気に乱れてしまう可能性があります。
乳酸菌を摂りながらも、悪玉菌を助長しやすい食品を食べ過ぎないようバランスに注意して食事を行うことが大切です。
プロバイオティクスを活用する
「プロバイオティクス」は、ヒトの体に良い影響を与える生きた微生物やそれらを含む食品を指します。具体的には、乳酸菌飲料やヨーグルトなどの発酵食品、さらにサプリメントや医薬品・医薬部外品（整腸剤）もプロバイオティクスに該当します。
食事が偏り気味で充分に発酵食品を摂れないと感じる方は、サプリメントや整腸剤を試してみるのもおすすめです。ただし、サプリメントの摂取も過剰摂取には注意し、あくまで補助的な利用にとどめましょう。
乳酸菌の効果を高める生活スタイル
バランスの良い食生活を心がける
乳酸菌の力を最大限に活かすためには、食生活全般の見直しが欠かせません。過度なカロリー過多や極端な偏食を避け、栄養バランスのとれた食事を基本としましょう。また、食事の時間が大きく前後したり、欠食や深夜の食事が多い場合も腸内環境を乱しやすいので要注意です。
発酵食品の摂り過ぎは、脂質・塩分・糖質などを過度に取り込む危険性があります。乳酸菌を摂る目的ばかりを優先せず、全体的な食事バランスを意識しながら、必要に応じてサプリメントや整腸剤を賢く活用しましょう。
適度な運動
適度な運動は、乳酸菌をはじめとする善玉菌を増やすのに役立つとされ、実際に腸内フローラの多様性が高まったという研究報告もあります。また、体を動かすことで腸に刺激が与えられ、蠕動運動が活性化して便通がスムーズになりやすい点もメリットです。
便通が良くなると、悪玉菌が増殖しにくくなるため、結果的に乳酸菌などの善玉菌が活躍しやすい環境をサポートできます。ウォーキングや軽いジョギング、ストレッチなど、日常に無理なく取り入れやすい運動から始めてみましょう。
十分な睡眠
人間の体は睡眠不足になるとホルモンバランスが乱れやすく、腸内環境にもマイナスの影響が及ぶ可能性があります。日常的に寝不足が続くと、善玉菌の数や多様性が低下してしまう研究報告もあるほどです。
乳酸菌を摂取して善玉菌を育てようとしている方は、睡眠習慣を整えることも忘れずに。質の高い睡眠を取ることで、体調全般を整えるだけでなく腸内環境のバランスもサポートできます。
ストレスを溜めない
現代生活ではストレスと切り離せない場面が多々ありますが、ストレスが高まると腸内フローラのバランスが乱れやすくなることがわかっています。腸は「第二の脳」と呼ばれ、脳と腸の間には「腸脳相関」と呼ばれる相互作用が存在するためです。
実際に、ストレスが強い時期は下痢や便秘になるなど、腸の調子が崩れる人も少なくありません。意識的にリラックスできる時間をつくったり、趣味や軽い運動を取り入れるなどして、ストレスを上手に緩和させましょう。
まとめ
乳酸菌は腸内環境を整えるカギとして、腸内で悪玉菌の増殖を抑え、ビフィズス菌や酪酸菌などと協力しながら私たちの健康に貢献してくれます。生きて腸に届く乳酸菌だけでなく、死滅した乳酸菌も善玉菌のエサになるなど、多様な形で人間の体をサポートするのが特徴です。
ただし、どんなに体によいとされる食べ物でも、摂り過ぎは栄養バランスの偏りや生活習慣病のリスクを高める可能性がある点に注意しましょう。
さらに、乳酸菌の恩恵をフルに受けるためには、食物繊維を含む食事や適度な運動、十分な睡眠、ストレスマネジメントなど、総合的に健康的な生活スタイルを維持することが大切です。毎日の習慣に乳酸菌をうまく取り入れながら、腸の健康をサポートし、より充実した生活を目指してみてはいかがでしょうか。