歯をギリギリこすり合わせている音に気づいて家族から指摘されたり、朝起きたときに顎や顔まわりの筋肉が疲れていると感じたりすることはありませんか。こうした「歯ぎしり」や「食いしばり」は、睡眠中や集中しているときなどに無意識に起こりやすいクセの一種です。放置していると歯が欠けたり割れたりするだけでなく、顎関節症や肩こり、頭痛などを招くおそれもあります。ここでは、歯ぎしり・食いしばりが起きる主な原因や、具体的な対処法・治療法をくわしく解説します。顎の不調や歯のトラブルに悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。
歯ぎしり・食いしばりとは何か
歯ぎしりや食いしばりとは、上下の歯を強くかみ合わせたり、左右にギリギリとこすり合わせたりすることで起こる悪習癖のことを指します。医学的には「ブラキシズム」とも呼ばれ、大きく分けて以下の3タイプがあります。
- グラインディング(歯ぎしり)
主に就寝中に上下の歯を強くかみしめたまま左右に動かし、ギリギリと音を立てるタイプ。歯の表面がすり減る、詰め物が外れる、歯が割れてしまうなどのリスクが高くなります。 - クレンチング(かみしめ)
上下の歯をずっとぎゅっとかみしめるタイプ。音が鳴らないため、周囲の人にも気づかれにくいのが特徴です。長時間強い力が加わることで歯や骨に負担がかかり、歯根破折(歯の根っこが割れる)や顎関節のトラブルを引き起こす場合があります。 - タッピング(カチカチ)
上下の歯を小刻みにカチカチと鳴らすタイプ。グラインディングやクレンチングに比べると歯や顎への負担は少ないとされていますが、クセが長く続くと顎や歯へダメージを与える可能性があります。
これらは無意識下で行われる場合が多く、とくに睡眠時は自分で気づくのが難しいことが特徴です。家族から「夜中に歯をギリギリ鳴らしていた」と指摘されて発覚する方も少なくありません。自覚症状が少ないからこそ、早めに気づいてケアすることが重要となります。
歯ぎしり・食いしばりが引き起こる原因
ストレス
もっとも大きな原因として挙げられるのがストレスです。仕事や人間関係の悩み、不規則な生活リズムなど、日々のさまざまなストレスがかみしめや歯ぎしりにつながると考えられています。寝ているあいだに歯を強くこすり合わせることで、知らず知らずのうちにストレスを発散しているのです。
ただし、それによって歯や顎の関節に過度な負荷がかかるのは問題であり、放置すると歯の寿命を縮めてしまうこともあります。
歯並び・かみ合わせの乱れ
歯並びやかみ合わせが悪い場合、一部の歯に負担が集中しやすくなります。詰め物や被せ物の高さが合わず、かみ合わせが安定しない状態に陥ると、歯ぎしりを助長する要因になります。また、上下の歯がしっかり噛み合わないことで顎が不安定になり、就寝中に歯を動かしてその位置を探ろうとするために、歯ぎしりが起こりやすくなるケースもあります。
枕が合っていない
睡眠時に高すぎる枕や合わない枕を使うと、首が前傾姿勢になりやすく、自然と奥歯をぐっとかみしめる姿勢が続いてしまいます。こうした不自然な姿勢で寝ると睡眠自体も浅くなり、結果として歯ぎしりを誘発しやすくなることがわかっています。
集中状態
勉強やパソコン作業、スポーツなど、何かに没頭しているときに歯を食いしばる癖をもつ人も多く見られます。集中力を高めようと無意識に力を込めてしまうため、顎や歯に負担がかかってしまうのです。就寝時だけでなく、日中もこまめに「今、歯を食いしばっていないかな?」と意識することが予防につながります。
歯ぎしり・食いしばりが引き起こす悪影響
歯が欠ける・割れる
就寝中に加わる無意識の力は想像以上に強く、歯の表面(エナメル質)がすり減るだけでなく、歯全体にヒビが入ったり割れたりすることがあります。とくにクレンチングタイプの方は上下の歯を強くかみしめるため、欠損や破折が起きやすい傾向があります。
歯根破折(歯の根っこが割れる)
歯ぎしりや食いしばりが慢性化していると、歯の根っこにまで大きなダメージが加わる場合があります。歯根が割れてしまうと、抜歯を余儀なくされるケースが多いため注意が必要です。とくに詰め物などで歯の形や高さが変わった歯は負荷のかかり方に偏りが出やすく、歯根破折のリスクが高くなります。
歯周病の悪化
歯周病は歯茎や顎の骨が細菌によってじわじわ破壊されていく病気ですが、そこに強い力が加わると骨の吸収が加速してしまいます。結果として歯周病の進行を早めてしまい、最悪の場合は歯が抜け落ちることにもつながります。歯ぎしりや食いしばりがある人ほど、定期的な歯科チェックで歯周組織の状態をしっかり確認しておくことが大切です。
詰め物が取れやすくなる
長期間にわたって強い力がかかり続けると、詰め物や被せ物が合わなくなり、取れやすくなることがあります。繰り返し外れては付け直すというサイクルを続けるうちに、歯自体へのダメージが蓄積され、最終的に抜歯が必要になることもあるため要注意です。
顎関節症
歯ぎしりや食いしばりによって顎の関節や筋肉に過度な負担がかかると、口を大きく開けにくくなったり、「カクンカクン」という音が鳴ったりする顎関節症になるおそれがあります。症状が進行すると、顎が痛くて食事や会話に支障をきたす場合もあるため、早期の対策が肝心です。
自宅でできる対処法
顎周りのマッサージ
歯ぎしりや食いしばりが続くと、咬筋(下顎を動かす筋肉)や側頭筋(こめかみ付近の筋肉)などが硬くなり、頭痛や肩こりを引き起こしやすくなります。入浴後など身体が温まっているときに、次のようなマッサージをしてみましょう。
- 咬筋のマッサージ
耳の下あたりに指を2~3本あてて、かみしめたときに固くなる部分を探します。そこを軽く円を描くように押しながら、ゆっくりほぐしてください。 - 側頭筋のマッサージ
こめかみ付近に指をあて、かみしめたときに膨らむ部分を中心にクルクルと円を描くようにほぐします。
痛みがある部分があれば無理をせず、気持ちよい程度の力加減で行うことが大切です。
日中の意識づけ
日中作業をしているときや運動中など、意外と歯を食いしばるクセが出がちです。「上下の歯はふだん離れているのが正常」ということを意識し、気づいたときに歯を離すよう心がけましょう。これだけでも、顎への負担はかなり軽減されます。
ストレスマネジメント
歯ぎしり・食いしばりの大きな原因となるストレスを上手にコントロールすることも重要です。とはいえ、ストレスをゼロにするのは難しいもの。ウォーキングやジョギング、軽いストレッチなどで身体を動かすことで、リラックス効果を高めることができます。自分に合ったリフレッシュ方法を探りながら、継続的にストレス発散を意識しましょう。
子どもの歯ぎしりへの対応
歯ぎしりは大人に限らず、子どもにも見られる習慣です。ただし、成長過程にある子どもは顎の位置や歯の並びを調整するために一時的な歯ぎしりをすることもあるので、大人ほど深刻なトラブルにつながらないケースが多いとされています。
とはいえ、強いストレスを抱えている子や、中学生以降になっても頻繁に歯ぎしりが続く場合は、顎関節や歯に悪影響が及ぶ可能性があります。
ストレスケアも含めた総合的な治療が鍵
歯ぎしりや食いしばりは、顎や歯のトラブルを引き起こすだけでなく、体のほかの部位にも悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、「とりあえずマウスピースを作ればそれでいい」というわけではなく、ストレスの軽減や生活習慣の見直し、必要に応じて矯正治療などを合わせて行うのが理想的です。
- 夜間のリラックス習慣
就寝前にスマートフォンを長時間見ないようにしたり、ぬるめのお湯でゆったり入浴するなど、リラックスできる環境を整えることが大切です。 - 食生活の改善
過剰なカフェイン摂取や飲酒は睡眠の質を下げる可能性があります。バランスのよい食生活を心がけることで、体全体の調子を整える一助となります。 - 定期的な歯科検診
歯ぎしりや食いしばりによる歯のダメージ、かみ合わせの変化を早期発見するためにも、歯科医院での定期検診は欠かせません。