朝起きたら顔がパンパン、夕方になると足がむくんで靴がきつい…。日常生活で多くの人が経験する腫れやむくみですが、中には見過ごしてはいけない病気が潜んでいる可能性があります。この記事では、腫れとむくみの違いから、その原因、チェックポイント、そして注意すべき病気までを詳しく解説します。繰り返す腫れやむくみに悩んでいる方はもちろん、最近むくみが気になるという方も、ぜひ最後までお読みください。
腫れとむくみ、その違いとは?
私たちは日常で「腫れ」と「むくみ」という言葉を混同して使いがちですが、医学的には異なる状態を指します。
腫れ(腫脹)
「腫れる(腫脹:しゅちょう)」とは、炎症などが原因で、体の一部、特に皮膚のある部分で血液の量が増加し、体積が増大した状態をいいます。腫れた部分は赤みを帯びたり、熱を持ったり、痛みを伴ったりすることが特徴です。打撲やねんざ、虫刺されなどが一般的な原因として挙げられます。
むくみ(浮腫)
一方、「むくみ」は、何らかの原因によって皮膚やその下の組織に水分が異常に溜まった状態を指します。血液中の水分が血管の外にしみ出し、細胞と細胞の間に過剰に蓄積することで起こります。医学的な用語では「浮腫(ふしゅ)」とも呼ばれます。
このように、腫れは血液量の増加による体積の増大であり、炎症を伴うことが多いのに対し、むくみは水分が組織に溜まった状態であるという違いがあります。しかし、実際には両者が同時に起こることも少なくありません。
あなたの腫れ・むくみはどのタイプ?原因別の分類
腫れやむくみは、その原因や起こる場所によっていくつかのタイプに分類できます。自分の症状がどのタイプに当てはまるかを知ることは、原因を特定し、適切な対処法を見つけるための第一歩となります。
起こる場所による分類
医学的には、腫れやむくみは主に以下の2つのタイプに分けられます。
全身性・両側性
体の左右両側に起こる腫れやむくみです。全身に影響が出ている可能性があり、心臓、腎臓、肝臓などの病気が原因となっている場合があります。例えば、両手や両足が同時にむくむなどがこれにあたります。
局在性・片側性
体の片側だけに起こる腫れやむくみです。特定の部位の炎症や血管の異常などが原因として考えられます。例えば、片足だけがむくむ、まぶたの片方だけが腫れるなどがこれにあたります。
性質による分類
むくみの性質によっても、以下の2つのタイプに分けられます。
圧痕性
指で数秒間押して離したときに、皮膚がへこんだ状態がしばらく残り、なかなか元に戻らないむくみです。これは、組織間の水分が移動しやすくなっているために起こります。夕方に足がむくんで靴下の跡がくっきり残るような場合や、向こうずねを指で押すと跡が残る場合などが該当します。
非圧痕性
指で押してもすぐに元に戻り、跡が残らないむくみです。このタイプのむくみは、組織に水分だけでなく、タンパク質などの成分も一緒に溜まっていることが考えられます。甲状腺機能低下症などで見られる粘液水腫などが代表的です。
自分の腫れやむくみがどのタイプに当てはまるのかを把握しておくことは、医師に症状を伝える際に非常に役立ちます。
見逃さないで!腫れ・むくみのチェックポイント
日常的な腫れやむくみの中には、重大な病気が隠れている可能性があります。以下のチェックポイントを確認し、気になる症状があれば早めに医療機関を受診しましょう。
- どこに起きますか? (例:まぶた、顔全体、手足、お腹など具体的に)
- 全身性ですか?局在性ですか? (両手足か、片手足か、一部分だけか)
- 押すとへこんで跡が残りますか?すぐに戻りますか?
- いつ症状が出ますか? (朝、夕方、特定の時間帯など) 消えるタイミングは?
- よく出るきっかけはありますか? (特定の食べ物、薬、行動など)
- 他の症状はありますか? (痛み、赤み、熱感、呼吸困難、倦怠感、尿量の変化など)
- 繰り返しますか? (頻度、期間など)
これらの情報を整理しておくと、医師の診断の手助けになります。
むくみの裏に潜む可能性のある病気
健康な人でも一時的に起こるむくみですが、特に注意が必要なむくみもあります。以下では、むくみのタイプ別に、考えられる病気について解説します。
全身性で圧痕性のむくみ
全身にむくみがあり、指で押すと跡が残る場合、以下のような病気が考えられます。
心臓の病気(心不全など)
心臓は全身に血液を送るポンプの役割を担っています。心臓の機能が低下すると、血液の循環が悪くなり、血管内の水分が組織に溜まりやすくなります。むくみの他に、息切れ、動悸、胸痛、疲れやすいなどの症状を伴うことがあります。
肝臓の病気(肝硬変など)
肝臓は、アルブミンというタンパク質を合成しています。アルブミンは血液中の水分を保持する重要な役割を担っています。肝機能が低下するとアルブミンの量が減少し、血管内の水分が組織へ漏れ出しやすくなり、むくみが起こります。腹水(お腹に水が溜まる)を伴うこともあります。
腎臓の病気(腎不全、ネフローゼ症候群など)
腎臓は、体内の水分や老廃物を尿として排出する役割を担っています。腎機能が低下すると、余分な水分を排泄できなくなり、むくみが起こります。また、ネフローゼ症候群のように、腎臓の病気によって血液中のタンパク質が尿中に漏れ出てしまうと、血液中のタンパク質が減少し、血管内の水分が組織へ移動しやすくなり、むくみを引き起こします。尿量の変化や倦怠感などを伴うことがあります。
全身性で非圧痕性のむくみ
全身にむくみがあり、指で押しても跡が残らない場合、以下のような病気が考えられます。
甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンは、体の代謝を調節する重要な役割を担っています。甲状腺機能が低下すると、粘液性物質が皮下組織に蓄積し、むくみを引き起こします。このむくみは、指で押しても跡が残らないのが特徴で、粘液水腫と呼ばれます。その他、寒がり、皮膚の乾燥、便秘、体重増加、倦怠感などの症状を伴うことがあります。
局在性で圧痕性のむくみ
体の特定の部分にむくみがあり、指で押すと跡が残る場合、以下のような病気が考えられます。
深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)
長時間同じ姿勢でいたり、水分不足の状態が続いたりすると、足の静脈に血のかたまり(血栓)ができることがあります。血栓が血管を塞ぐと、血流が悪くなり、血栓ができた側の足だけが急に腫れてむくみます。痛みや熱感を伴うこともあり、放置すると肺塞栓症という命に関わる合併症を引き起こす可能性があるため、早急な受診が必要です。
局在性で非圧痕性のむくみ
体の特定の部分にむくみがあり、指で押しても跡が残らない場合、以下のような病気が考えられます。
じんま疹、血管性浮腫
じんま疹は、皮膚の一部が急に赤く盛り上がり、かゆみを伴う病気です。血管性浮腫は、じんま疹と似た症状ですが、より皮膚の深部や粘膜に起こりやすく、かゆみを伴わないことが多いです。まぶたや唇、舌、喉などに起こることがあり、喉に腫れが生じると呼吸困難を引き起こす危険性があります。アレルギー反応や遺伝的な要因など、様々な原因で起こります。
リンパ浮腫
リンパ管は、組織に溜まった余分な水分や老廃物を回収する役割を担っています。手術や放射線治療、感染症などによってリンパ管が損傷したり、閉塞したりすると、リンパ液の流れが滞り、むくみが起こります。初期には圧痕性のむくみが見られますが、進行すると非圧痕性の硬いむくみになることがあります。
腫れやむくみが原因で起こる腹痛
一般的に、腹痛の原因は消化器系の病気や女性特有の疾患などが考えられますが、まれに腫れやむくみが原因で腹痛が起こることがあります。特に、「腫れ・むくみを繰り返す体質」の方は注意が必要です。
遺伝性血管性浮腫(HAE)による腹痛
遺伝性血管性浮腫(HAE)は、遺伝子の異常により、ブラジキニンという炎症を引き起こす物質が過剰に産生されることで、体の様々な部位に腫れやむくみが生じる病気です。皮膚だけでなく、消化管にも腫れが起こることがあり、その結果、激しい腹痛、吐き気、嘔吐などの症状が現れることがあります。この腹痛は、他の原因による腹痛と区別がつきにくいこともありますが、2~3日続くことがあります。
もし、原因不明の腹痛を繰り返すことがあり、過去に皮膚の腫れやむくみを経験したことがある場合は、遺伝性血管性浮腫の可能性も考慮し、医療機関を受診して相談することをおすすめします。
繰り返す腫れ・むくみは「遺伝性血管性浮腫」の可能性も
「急に手足や顔が腫れたりむくんだりして数日で消える」「その腫れやむくみにはかゆみがない」「2、3日原因不明の腹痛が続いたりする」といった症状を繰り返す場合、特に家族や親戚にも同様の症状が見られる場合は、「遺伝性血管性浮腫(HAE)」という遺伝性の病気である可能性があります。
遺伝性血管性浮腫(HAE)とは
遺伝性血管性浮腫(HAE)は、生まれつきC1インヒビターというタンパク質の量が少なかったり、機能が低下していたりすることが原因で起こります。C1インヒビターは、炎症反応を制御する役割を持つタンパク質であり、その機能が低下すると、ブラジキニンという血管を拡張させ、血管透過性を亢進させる物質が過剰に産生されます。その結果、皮膚や粘膜、消化管、気道などに腫れやむくみが繰り返し起こります。
遺伝性血管性浮腫(HAE)の症状
HAEの症状は、発作的に現れ、数日から数日で自然に治まることが多いですが、重症化すると命に関わることもあります。主な症状としては、以下のようなものがあります。
- 皮膚の腫れ・むくみ: 手足、顔面(特にまぶた、唇)、首などに突然現れ、かゆみを伴わないことが多いです。
- 腹痛: 消化管の腫れにより、激しい腹痛、吐き気、嘔吐などが起こります。
- 喉の腫れ: 最も危険な症状であり、気道を塞ぎ、呼吸困難や窒息を引き起こす可能性があります。
遺伝性血管性浮腫(HAE)の診断と治療
HAEは、症状だけでは診断が難しく、血液検査によってC1インヒビターの量や機能を調べることが重要です。早期に診断を受け、適切な治療を行うことで、症状の発現を予防したり、重症化を防いだりすることができます。治療法としては、発作時の治療薬と、発作を予防するための定期的な予防療法があります。
もし、上記のような症状に心当たりがある場合は、自己判断せずに、専門の医療機関を受診して相談することが大切です。
まとめ
今回の記事では、日常的に起こる腫れやむくみの原因や種類、そしてその裏に潜む可能性のある病気について詳しく解説しました。腫れとむくみは似たように見えても、その原因やメカニズムは異なります。自分の症状を正確に把握し、チェックポイントを確認することで、早期発見・早期治療につながることがあります。
特に、全身性のむくみや、特定の部位に急に起こるむくみ、そして繰り返す腫れやむくみには注意が必要です。呼吸困難や激しい痛みなど、普段とは異なる症状が現れた場合は、迷わず医療機関を受診してください。
また、「腫れ・むくみを繰り返す体質」で、原因不明の腹痛を経験したことがある方は、遺伝性血管性浮腫(HAE)の可能性も考慮し、専門医に相談することをおすすめします。
自分の体の変化に注意を払い、気になる症状があれば放置せずに、適切な医療機関を受診することが、健康な生活を送る上で非常に重要です。